4月7日緊急事態宣言が出された。新型コロナウイルスの今後の展開に関しては予断を許さないが、既に国民は宣言に則り自粛を始めている。多くの企業も社員の在宅勤務・テレワークを進めている。4月10付け日経新聞社説では「テレワークに背を向けるな」と題し、企業としての「従業員に対する安全配慮義務」と「社会的責任」の視点からテレワークを推奨している。さらに「業務プロセスを見直し、テレワークが出来る仕事を増やすべきだ」と指摘している。しかし現実には在宅勤務・テレワークに消極的企業も多いようだ。
職場を離れ、上司の目の届かないところで働くことは多くの社員にとって初めての経験であろう。しかしこのテレワークがもたらした「働き方改革」効果は想像以上に大きなものがあり、既にテレワークを始めた多くの社員がその効果に気づいている。通勤時間は当然として、従来の通常業務に含まれていた無駄な時間の多さに驚いているだろう。多くの職場においては上司からの口頭による指示で、曖昧なまま作業が開始されていたため、途中の手戻り・やり直し等が発生していた。しかしテレワークでは「あれやっといて」と言った以心伝心は成立しにくい。上司は指示する内容を「言葉化」する必要性が生じる。仕事を始める段階で対象となる仕事が何なのか、どのような結果を求めているのかの指示が求められ、疑問があれば必要な質疑がなされる。当たり前のことがテレワークを機会に実行されるようになる。国土交通省の平成30年3月の「テレワーク人口実態調査」によれば、半数以上がテレワークの実施効果ありと回答しており、プラス効果の内容として「自由時間が増えた」、「通勤・移動時間が減った」と並び「業務の効率が上がった」とする回答が46.3%と半数近くに上っている。
上司も実は「言葉化」の重要性に気付いている。伝統的に多くの日本企業では、上司の意図を忖度して動くのが部下の仕事であった。上司にとっては居心地の良い状態ではあるが、そのやり方が無駄を生じ、仕事の効率化を妨げていたと言える。テレワークにより一つひとつの仕事の進め方を「言葉化」することで効率化が実現することを目の当たりにすれば、上司としての仕事のやり方、働き方がどうあるべきか分かるはずである。これをもう一歩踏み込むと仕事全体の「言葉化」、「仕事の定義づけ」につながる。仕事の定義づけはマネジメントの出発点である。共同体的な組織でぬるま湯につかっていた上司である管理職が、本来のマネジメントとしての仕事へと転換する機会と言える。
当然のことながら評価もその方向で変更が必要である。評価の基準となるのは「定義された仕事」である。従来の評価制度が機能しない主な理由は、仕事の定義の曖昧さに由来する。結果として姿勢とか態度とか主観的な要素を使わざるを得ず、社員の不満の温床となっていた。仕事の効率化と同時に評価制度が本来あるべき姿で機能するとしたら、一石二鳥である。新型コロナ対策として本格的に導入されたテレワークが、仕事の本来あるべき姿に転換する機会を与えてくれていると言える。テレワークに消極的企業は是非この利点を考慮し、導入を前向きに検討すべきである。