小池都知事就任以来豊洲問題とオリンピック施設問題が大きく話題となっている。貴重な税金の使い道が報道されているような曖昧なプロセスで決まっていると思うと愕然とする。決定のプロセスにおける「犯人」捜しがマスコミの注目を集めて来たが、豊洲問題に関して言えば、組織上決定権限を持っているのは新市場整備部長であり、中央卸売市場長である。最終的な決定権限は都知事にある。権限と責任は表裏一体であり、彼等が責任者として責任を取るのが当然である。責任の取り方に関しては、当該規程に基づいた別の議論が必要であろうし、その罰則の軽重は切り離して議論がなされるべきである。しかし責任者探しにこれほど長時間を要したことは理解に苦しむ。産経ニュースによると元新市場整備部長は「盛り土をしないことを了解した事実はない」とする反論書を都に提出したとのことだが、了解していないにもかかわらず重要案件が進行してしまったことに対する責任は感じていないのであろうか。
東京都に限らず多くの組織で重大な問題が発生する度に責任者探しに多大な時間が割かれる。何故そのような事態に陥るのか考えてみると、それぞれの組織の主要なポスト・役割の権限・責任が曖昧であることに行きつく。中央卸売市場のホームページで主要なポスト・役割の業務内容・責任範囲を確認してみた。残念ながら組織図は出ているが、具体的な業務・責任内容は出ていない。他の組織についても同様である。
それではそのような主要なポスト・役割に配置される職員は何を基準に登用され、また登用後何を基準として実際の仕事を遂行しているのであろうか? 東京都のホームページには任用の仕組み、給与決定の仕組みを説明しているページがある。任用体系図には採用後の昇級条件が示されている。例えば主任級から課長代理級への昇級には「主任級歴2年以上6年未満、かつ年齢53歳未満」である。以降課長級、部長級、局長級までが表示されている。詳細な規定の記載はないが、基本的には年功的運用であることが見て取れる。また給与支給の説明図表には給与が給料と手当で構成されており、給料は昇格と昇給とから構成されていると説明がある。「昇給は勤務成績に応じて昇給幅を決定」と書かれているが、但し書きに「55歳を超える職員については、中級以下の成績の場合昇給停止」とあり、ここもまた年齢による基準が生きている。
部長級・局長級の具体的な業務内容・責任・権限などの説明は見つからなかったが、主要ポストに関して、役割の権限・責任に基づき任用・給与が決まる仕組みとはなっていないのは確かである。元新市場整備部長の反論書のようなものが出て来ること自体がそれを説明している。にもかかわらず行政職給料表によれば、例えば5級職1号給の給料月額は1級職1号給の4倍となっている。この差を正当化する根拠は何であろうか?説明を読む限り責任の大きさによるものではなく、年功と能力と過去の勤務成績によるもののようである。
11月28日付の日経新聞社説に「同一労働同一賃金を生産性を高めるテコに」と題して、「働き方改革の目玉の一つとして、仕事が同じなら賃金も同じにするという同一労働同一賃金の議論が厚生労働省の有識者会合などで進んでいる」ことを取り上げている。そこでの議論は「非正規社員の処遇向上策として」の議論が主のようであるが、「正社員の処遇制度も見直す機会になる。同一労働同一賃金は、賃金は職務の対価という考え方を前提している」として「(年功色を改め)仕事の中身や難易度で賃金を決める職務給を積極的に取り入れるべきだ」と結んでいる。この視点に立てば、東京都の仕組みは全く時代遅れのものと言わざるを得ない。
「賃金は職務の対価」とは、組織として求める職務が遂行できると判断される職員・社員が選別・配置され、遂行された結果に基づき報酬が決まる仕組みを意味する。職務遂行のための権限が与えられ、結果に対しての責任を負うからこそその報酬が正当化される。現在政府が進めている働き方改革の大きな柱である、同一労働同一賃金の考え方もこの方向で進めてこそ、結果としての効率向上・生産性向上につながる。同じ責任のある仕事をしている社員が、正規か非正規かのステータスの違いで報酬に差があってはいけないのは勿論であるが、正社員と言えども、主要なポスト・役割にある職員・社員であれば「仕事の中身」こそ報酬決定の基準とすべきであり、そうでなければ組織の生産性向上は期待できない。
東京都の職員は、働き方改革の先兵であるべきであろう。豊洲問題のような問題が起こった時、組織の長が末端の社員と同じ発言をしてはばからないのであれば、「名ばかり組織長」であり、同一労働同一賃金の原則から言えば、両者の報酬に4倍の差は必要ない。同一労働同一賃金の議論が正規社員と非正規社員の差別待遇を無くす方向で議論がなされているが、基本的な考え方が理解できていなくては正当な取り組み方向が定まらない。税金によって賄われている都の職員の報酬のメカニズム改革こそが、働き方改革の出発点となるべきであろう。それが豊洲問題の再発を抑え、組織の効率性・生産性改善への道である。
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