平成28年9月27日、首相官邸で「働き方改革実現会議」の初会合が開かれた。その中で、首相は、同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善等、全部で9つのテーマを取り上げた。大変重要なテーマが並んでおり、しっかりと実施に移せるようにしてほしいと思う。
本稿では首相の提示した9つのテーマのうちの5番目である、テレワーク等の柔軟な働き方について、その実現の鍵を提示したい。
多くの日本企業の場合、テレワークのような働き方であれば、どれだけ頑張って働いていたかわからないから人事考課ができない、というご相談を受ける。確かに、職能資格制度で、いわゆる「ヒト」を中心にした人事制度であれば、各社員の能力・実績・態度などが人事考課の対象になっていることが多く、全く働いている様子を見ずに能力やましてや態度を評価することはできないであろう。柔軟な働き方を実現するためには、評価制度を変えることが重要な鍵となるのである。
目の前にいない部下を評価するためには、「ヒト」を評価するのではなく、仕事をどれだけ期待したとおりにやってくれたかを評価することが必要である。そのためには、部下に期待する仕事の全体像を役割として定義することが第一歩である。その方法として良く知られているのは、北米式の職務記述書であろう。しかし、これは日本企業では受け入れられてこなかった。その理由は複数あると思われるが、実際に職務記述書を書くという作業面から言えば、あまりにも仕事を細かく定義してしまうからであろう。
みのり経営研究所(以下、みのりと略す)が提案している方法は、職務記述書のように一つの仕事に対して多くのページを割いて定義するのではなく、まず、部下の仕事全体を役割として大きくとらえ、その役割に期待されることを大体9項目程度で押さえておく。そして、毎期初、その期待されている9項目各々に対して今期は何をするかを、上司と部下で目標と言う形で設定する。従って、目標の数は9つ以上になり、その期の仕事全体をほぼカバーすることになる。ここで、よく質問されるのは、「我が社でも目標管理はしているが、目標の数は重要なもののみで5つ程度としている。通常の仕事は目標にはならないのではないか」ということである。
確かに、そもそも期待する仕事の中味を定義しないで、突然目標と言われても、そんなに多く設定することはできないのであろう。そして、通常の仕事は目標設定の対象ではないということであれば、その部下に期待する仕事の多くは評価されません、と言っていることと同じである。
前号でも述べたとおり、みのりは役割を基にした人事制度を提唱・実施している。一人ひとりの社員に対して、役割を定義し、毎期初に役割定義に基づいて、目標を設定し、上司と部下で1年間の仕事を合意し、期末に目標の達成度を評価する。仕事全体を定義し、仕事の達成度が評価対象である。従って、どこでどのような形で働いていようが、仕事をどれだけやったかの評価はできる。
政府が提唱している柔軟な働き方の実現、また同一労働同一賃金等その他の多くの項目の実現には、仕事を軸として社員を雇用し、評価し報いていく制度への転換は不可避である。役割を基にした人事制度への転換は、避けて通れない重要課題なのである。
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