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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

規制改革会議『規制改革に関する答申』への疑問


 

掲題答申が6月5日付で発表された。「雇用分野」に関して気付いたことを書いてみたい。

総論「1.初めに」で「規制改革は我が国の経済を再生するに当たっての阻害要因を除去し、民需主導の経済成長を実現して行くために不可欠の取り組みであり、内閣の最重要課題の一つである」と述べられている。次に「2.規制改革の推進に当たっての基本的考え方」「(2)今回の規制改革で重視したこと」として第一番目に「働く者にとって、転職が個人の能力と競争力を高め、人々が働きやすい労働市場と雇用システムを作るために規制改革にも着手した」と記されている。転職がどのように「個人の能力と競争力を高める」のか知りたかったが、詳しい説明はない。さらに「人々が働きやすい労働市場」とは何を意味しているのだろうか?人は個々の企業(会社・組織)で働いているのであって、労働市場で働いているのではない。出発点で、はたと困ってしまった。このような疑問点だらけの「基本的な考え方」で本当に「民需主導の経済成長」が実現できるのであろうか?

詳しく知るために各論としての「各分野における規制改革」を見てみよう。「4.雇用分野」の第一番目は「規制改革の目的と検討の視点」である。第一文は「正規・非正規雇用の二極化構造を是正し、・・・・そのための雇用改革は【1】正社員改革、【2】民間人材ビジネスの規制改革、【3】セイフティネット・職業訓練の整備・強化の三つが柱となる」から始まっている。こともなげに「正社員」と言う言葉を使っているが、そもそも正社員とは何か?「【1】正社員改革」の中で「(1)無期雇用、(2)フルタイム、(3)直接雇用といった特徴を持つだけでなく、職務、勤務地、労働時間が限定されていないという傾向が欧米に比べても顕著であり『無限定社員』となっている」とあるが、これが検討の出発点となっていることに驚きを禁じ得ない。

無限定に都合よく社員を使うことを放置したまま、その上に屋上屋を重ねるがごとく、「『ジョブ型正社員』を増やすことが…労使双方にとって有益であると考える」発想では、規制改革どころか、要りもしない規制を新たに作り出すことにつながるのではないか。そもそも「正社員」という呼び方は、明確な仕事を与えられない経営者が、都合よく社員を使うために与えた呼称である(法的に有効な定義はない)。同じ会社で働く社員に正しい社員も正しくない社員もいない。人により仕事の内容は違うし、契約形態も異なることは事実としてある。フルタイムかパートタイムかと言う違いなどは典型的である。

しかしそれは単純に社員の雇用形態が違うと言うだけで済む話である。どんな会社にも既にさまざまな契約形態で働く社員が居る。それを今更正社員か非正規社員かなどと言う線引きをするのは、旧式の「身分」に基づいた人事台帳で管理している旧態依然とした会社だけであろう。そんな会社には市場から退場して頂けばいいだけである。契約形態にかかわらず、すべての社員はその会社にとって戦力である。どの社員にも最大限の力を発揮して貰って初めて会社としての業績が達成できる。そのようにするのが経営の役割である。正しくない社員等いるはずがない。まずこんな分類を止めさせ、どんな社員であれ、戦力として使えるような経営をさせることが最重要課題であろう。敢えて言わせて頂ければ、社員を無限定に使うことしかできない会社で「ジョブ型正社員」の職務の定義を誰が作り管理することができるのか全く分からない。従いその雇用ルールの整備など出発点からして間違っているのである。

同じ段落にある「多様な視点を持った労働者が貢献する経営(ダイバーシティマネジメント)を促進」は重要なテーマである。現在多数の企業で、様々な制度がこの視点から構築されているようである。しかし一番重要なのは、社員の契約形態や経歴とは無関係に、その社員の個人としての力量を認め、組織の一員として最大限の力を出させる方向で経営者・管理者の意識を変えることである。「正社員」ありきでの議論では、とても多様性を受け入れる風土変革に到達できるとは思えない。

この「正社員」を出発点とした分類を複雑化して行くやり方は迷路に迷い込むだけである。規制改革どころか、規制の複雑化に向けてまっしぐら、阻害要因を作り出しているとも言える。既に多様性を受け入れられない企業は淘汰されつつあるとも言える。「正社員」という概念にしがみついているような企業は衰退の一途をたどっている。そんなところの延命に力を貸すような規制複雑化はやめるべきである。ビジネスを知らない人事の専門家に任せていると、従来の日本型人事温存・拡充の方向で議論が進み、日本企業はますます競争力を失ってしまう。今必要なのは原点に戻り、社員の経歴や契約形態にかかわらず組織としての役割を果たしてもらう方向で、人事を変えて行くことであるとも言える。そのためには経営戦略を理解し、組織の作り方から関与できる人事の専門家を育てることである。

雇用分野の最初のページだけで、基本的な疑問点に突き当たってしまった。規制緩和と叫びつつ、実態はどう考えても規制の複雑化である。「規制改革によって、企業、NPOなどの事業者の創意工夫を拒む壁を取り除き」たいなら「正社員」などという実態のない概念を捨てさせるところが出発点となるべきである。すべての社員は「正社員」である。「働く人が、本人の希望で多様な雇用形態を選択」できる環境とは、ここが出発点である。

まだ触れたいところはたくさんある。特に解雇制限緩和に関しては別の機会に触れたい。経営と一体化した人事を考える立場としては、人事の問題をこれ以上複雑化させないでほしいと祈るばかりである。

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