組織の構成メンバーとして社員一人ひとりが行う仕事には多種・多様なものがあります。長い歴史のある組織であれば、仕事は既にそこにあるものとして引き継がれ、改めて仕事を見直す機会は少ないと言えます。しかし創業期の企業、あるいは再編成を考えている組織では社員にやってもらう仕事を改めて真剣に考える必要があります。この時、どのような視点から仕事を捉えるのかが大変重要な出発点となります。一つの一般的な捉え方は、社員の業務活動に注目して仕事を規定していくやり方です。報告書等特定の書類の作成、プリゼンテーション、顧客等外部関係者との折衝、売上・経費等の管理、会議への出席・運営等々。業務活動に着目して細分化し、それを組み合わせることで仕事を定義するやり方です。このやり方は定型化された業務活動を中心に仕事が進められる業種では効果を発揮します。しかしひとたび業務活動の見直しをしなければならないときは、大変な労力が必要になります。
一方その仕事の機能に注目し、仕事を定義するやり方があります。例えば開発の仕事、製造の仕事、販売の仕事、財務・経理の仕事、人事の仕事、総務の仕事等々。組織構造を考えるときはこのアプローチが分かりやすく、絵として描きやすい利点があります。創業期の企業は大まかにAさんには営業をやって貰い、Bさんには財務・経理をお願いしますという感じで役割が決まり、組織が決まっていくケースが多いようです。ただそれぞれが具体的にどのような業務をやっていくかとなると、重複・抜けの問題が生じる可能性は否めません。結果としては一般的な機能の解釈で業務が割り振られ、時間の経過とともに、それぞれの仕事の定義が補強されていくことになります。多くの企業に見られる「業務分掌規程」がこれに当たります。組織の成長の過程を反映して、部署間の「分掌範囲」に関する規定は厳密です。しかし実際の業務内容に関しては相変わらず曖昧です。AAに関する業務とか、BBに関する管理・調整といった表現ですべての業務活動をまとめてしまっています。例えば人事課の一般的な分掌規程を見てみると、次のような文言が並んでいます;1.採用に関する業務、2.人事異動に関する業務、3.人事考課に関する業務、4.教育に関する業務、5.給与・賞与に関する業務、6.社会保険・労働保険に関する業務、7.福利厚生に関する業務等々。
この規定だけではそれぞれの業務が関係先とどのような関係で行われるかまでは見えません。例えば人事異動・人事考課は現場の管理職との関係で人事課として何をすべきかは見えません。そこでこれとは別に「職務権限規程」というものを作る必要が出てきます。その中で各部署の長に当たる職務あるいはスタッフ部門が何をすべきか、責任権限が規定されることになります。だんだん規程集の量が増えていき、結果的には最初の業務活動レベルで仕事を捉える方向に進んでいくことになります。
しかし上記両方のアプローチとも、担当する社員(管理職も含め)は何を目指してそれぞれの業務活動を遂行するのか、その方向性が明確ではありません。例えば営業という仕事で売り上げを上げることを目的にしていることは当たり前のようですが、どうやって売り上げを上げるかはここには出てきません。実はここのところが経営者の思いが社員に伝わるかどうかの最大のポイントになります。売り上げに拘り過ぎれば、顧客の利益を無視して押し込み販売をするようなことが発生します。問題が発生して慌てて売り方に関する組織の方針を改めて発信するという事態になります。一般的には経営者が目指している思いは、組織の設計とは別に都度メッセージが伝達されているようです。
組織は経営者の思い実現のための仕組みであるとしたら、組織設計の段階で経営者の思いが、それぞれの社員の仕事の中身に反映されていなければなりません。社員が所属する部署の目指す機能・目的と日々の業務活動をつなげるもう一つのレベルが組織設計のカギとなります。細分化すれば切りのない業務活動に目的と整合性ある方向性を持たせるためにそれを束ねる概念。それをみのりは「貢献責任」と呼んでいます。この部署は営業をやるんだといった時に、営業とはわが社ではこういうことを意味するという思想を明確に伝える概念です。企業によっては売上増大を開発・製造を中心に考え、営業は顧客との関係構築・情報収集の役割だけを負ってもらうという考え方もあり得ます。この場合世の中一般の営業という概念とは違った営業組織が求められます。それを「営業に関する業務」というような表現で社員に伝えることは不可能です。また社員に業務活動レベルで事細かく仕事を定義することは、膨大な作業を強いることになります。
次回「貢献責任」という概念を使って社員の仕事をどう表現できるかについて触れます。