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執筆者の写真秋山 健一郎

【最終回】日本における組織設計の展望


 

「思いの実現を支える組織づくり」を締めくくるに当たり、北米での最新の議論を紹介します。みのりのパートナーであるDavid Creelman(現在みのりのHPで毎月コラムを書いてくれています)が組織設計の専門家Ron Capelleの最新の本“Optimizing Organization Design: A Proven Approach to Enhance Financial Performance”を紹介しています。組織設計における非常に面白い視点「水平的整合性と垂直的整合性」が展開されています。水平的整合性とは地域別組織あるいは機能別・製品別組織など一般的な構造上の設計を言うようです。興味深いのは垂直的整合性です。これは上司・部下の距離感すなわち役割の重要度・大きさの違いを指します。Capelleの調査によるとこの垂直的整合性が組織の業績(財務業績ばかりでなく顧客満足度・社員の積極的取り組みなど)に非常に大きな影響力を及ぼすとのことです。

多くの方はその意味するところが理解しにくいと思います。「組織設計」と言うと彼の言う「水平的整合性」のことだけと理解する方が多いからです。日本における組織設計の議論にもこの「垂直的整合性」の視点が持ち込まれれば大変有意義だと考えられます。一つには組織の効果的運営は単なる「水平的整合性」すなわち構造の議論だけでは収まらず、「垂直的整合性」の議論が絶対必要だと考えられるからです。「上司と部下の役割の大きさの違い」まで検討して初めて本質的な組織設計の議論、そして実践的な議論への展開が可能となると思えるからです。組織の効果・効率は構造の議論だけでは捉えきれないことはこのコラムで繰り返してきたことです。そこに「垂直的整合性」という視点を導入することにより、ミクロの組織設計の重要性を認識できると考えられます。特に役割の明確化という考え方が如何に重要かということを、組織の業績という視点から捉えるよい機会になります。みのりとして独自の手法を紹介してきましたが、日本の組織における役割の重要度の測定の在り方に関してもっと広範な議論が必要だと考えています。日本の組織設計に根本的に欠けているのはこの視点です。伝統的に日本では役割に違いがあるのではなく、人に違いがあるという視点を持ち続けています。しかしこの視点こそが日本的経営の諸悪(良いところは別として)の根源とも言いえます。既に別のコラムでも指摘しましたが、正社員というような発想は、人が違うという身分的な発想から来ています。そうではなく違うのは役割・仕事であるという認識が無ければ機能的な組織の設計は困難です。

大前研一氏の「仕事が無くなる時代の新しい働き方」という本の中で、裁量労働制が根付かなかった理由として、日本では「仕事を命じる経営者や上司が仕事を定義できていない」ことを指摘しています。慧眼だと思います。みのり流の組織設計の視点から言えば、組織のミクロデザインの第一ステップが欠けているということになります。そして仕事の定義の次に来るのが、仕事(みのり流にいえば「役割」)の重要度の測定です。組織設計ではこれがセットになります。定義された仕事の測定ができて初めて、実践的な組織設計ができたと言えます。

Capelleの主張では「上司と部下の間で、測定されたそれぞれの役割の重要度の違いが組織の業績に直結している」ことが調査データに基づき述べられています。このような議論が日本で活発になることが、日本の企業経営をより実践的なものにしていくのだと思います。この指摘をもって、今回の組織設計の連載を終了とさせて頂きます。長い期間お付き合い頂き有難うございました。



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