前回は、モデルへの到達シナリオを策定しました。これで、中期経営計画を達成できる5年間の人件費枠ができました。そこでいよいよ今回は、この人件費計画に沿って、実際に賞与原資と基本給昇給率を決める方法を見てゆきましょう。
(1) 賞与原資の算定
賞与原資の算定は、まず、その年度に生み出した付加価値額に、期初に約束した労働分配率を掛けて、社員に分配する人件費総額を算定します。そして、そこからすでに支払った人件費総額を差し引くことで、残りが賞与原資となります。
例えば、2011年度期初計画の売上や付加価値額を計画通り達成したという場合を見てみましょう。
2011年度期初計画 2011年度末(賞与支給前) 売上高 220億円 220億円
付加価値額 77億円 77億円
経常利益率 40% 40%
企業維持費率 22% 22%
労働分配率 38% 38%
人件費枠 29億円 20.15億円
(賞与以外の既払い人件費総額)
期初に約束した労働分配率は、この例では38%となっています。従って、2011年度末の付加価値額77億円に38%を掛けた人件費枠は29億円あります。期末に賞与以外の既払い人件費総額が20億1500万円でした。つまり、29億円-20.15億円の8.85億円が今年度の賞与支給原資となります。計画通りの達成で、社員も会社も共に成果を享受することになります。
勿論、この例は売上も付加価値も企業維持費のコスト管理もすべて計画通りの達成ができたという、理想的な場合です。現実的には、色々な場面が想定されるでしょう。
例えば、外部購入価値が増えてしまい、付加価値額が計画より大幅に減少してしまったということもあるでしょう。その場合は、付加価値と言う配分のパイが小さくなったということです。労働分配率や利益率といった付加価値構造は決まっていますので、下記のように付加価値が小さくなった分だけ、人件費枠も利益も少なくなるということになります。(ここでは企業維持費率は計画を達成したと仮定しましょう。)
2011年度期初計画 2011年度末(賞与支給前) 売上高 220億円 220億円
付加価値額 77億円 77億円
経常利益率(率) 31億円 (40%) 27億円 (40%)
企業維持費率(率) 17億円 (22%) 15億円 (22%)
人件費枠 (労働分配率) 29億円(38%) 26億円 (38%)
この場合には、前例同様、期末に賞与以外の既払い人件費総額が20億1500万円だったとすると、26億円-20.15億円の5.85億円が今年度の賞与支給原資となります。社員と会社の双方で痛みを分かち合うということです。
また、例えば、コスト管理が上手くなされていなくて企業維持費が大きくなってしまった場合はどうでしょうか?これは付加価値構造に変化が起こる場合です。このように、付加価値構造に変化が起こる場合に関しては、前もって労使で決めておくことが必要です。基本的には、①労使の痛みわけ(企業維持費率が大きくなった分、労働分配率と利益率を同等に減らす)、②経営計画優先主義(経営計画の利益確保のための制度なので、企業維持費率が増えた分は、労働分配率を減少させる)、③社員への還元優先主義(企業維持費というコストが増えてもあくまでも社員に約束した労働分配率は守り、利益率を減少させる)の3種類でしょう。ここは企業の考え方で決めていただく方針となりますが、会社と社員が一体となって頑張る仕組みとするには、①労使の痛みわけとすることが理にかなっていると言えるでしょう。ただし、これはあくまでも、万が一このような状況になった場合のためのものと言うことであって、もっと大切なことは、コスト(企業維持費)をきちんと管理して、計画を達成するということです。
このように、労使で付加価値構造とその変動時の対応に関して前もって合意しておけば、その都度交渉して賞与原資を決めていくことは不要になります。そして、みんなで頑張って付加価値額を増大させれば、みんなに分配される賞与原資も大きくなります。会社と社員が一体となって、頑張る仕組みなのです。
なお、以上は賞与の原資の計算です。これをどのようなタイミングで支給するかと言うことは賞与制度の設計になります。計算した賞与原資全部を期末賞与の形で一括して支給することも可能ですし、あるいは、ある一定額のみ、夏と冬に賞与として支給しておいて、期末に差額を期末賞与として支給する会社もあります。
(2) 次年度の基本給昇給率の算定
次年度の基本給昇給率は、次年度の人件費枠が決まっていますので、これもある程度自動的に算定することができるようになります。その手順は以下のようになります。
昇給率も、中期経営計画を達成するための付加価値構造を労使で事前に合意しておくことで、設定された人件費枠にそって算定することで、わざわざ毎年交渉することは必要なくなります。そうすれば、その分のエネルギーと時間をビジネスの成功に費やすことも可能となります。
今回は、総人件費管理の観点から、どのように賞与原資および昇給率を算定するかを見てきました。次回はいよいよ最終回です。これまでに述べてきたことを纏めると共に、付加価値分析のその他の利用方法にも触れて、今回の連載を締めくくりたいと思います。
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