前回は、これからの人事制度に必要な六つの基本要素とは何かということを考察しました。今回はその中の一つ目の基本要素である、「経営戦略を支える人事戦略を持つ」制度に関して、具体的にはどのようなものなのかを考えて見ましょう。
人事制度の出発点として人事戦略があり、人事戦略の親として経営理念・経営戦略がある。この繋がりがあってはじめて、我が社の人事制度はなぜこういう制度なのかを社員にはっきりと説明することができます。ところが、これまで20年間、人事制度のコンサルティングをやってきた中で、この繋がりを明確に持っている会社は本当に少数でした。これからの低成長時代に社員の力を結集して経営戦略を達成してゆくためには、どうしてもこの繋がりが重要になってきます。
経営戦略から人事戦略を導き出し、その人事戦略に則って人事制度を構築する。これによって、個々の具体的な制度となったときにも、最終的には経営理念、経営戦略とつながっていることが担保できます。怖いのはその時々の経済情勢や経営状況によって個別の制度を変更せざるを得ない場合です。例えば人件費を変動費化させたい、プロセスの評価を入れたいと言った時です。その変更は経営戦略、人事戦略のどこから出てくるのか、その繋がりを時間的制約などによって検証するのを忘れてしまうことがあります。個々の制度がどう経営につながっているのかを常に意識しておくことで、経営と直結した人事を確保することができます。
まず、出発点が押さえられていること、これがなによりも大切です。
それでは、経営戦略を支えることの出来る人事戦略はどうやって見出してゆけば良いのでしょうか。それには、まず我が社の知恵の結晶である中長期経営戦略を見て、それが「人」に関して何を必要としているのかを抜きだすことです。つまり、経営戦略を人事の言葉に翻訳するという作業をするということです。例えば、経営戦略で「5年間で店舗数を20%増加する」ということが出ているとします。そうすると、この戦略目標は「人」に関して何らかの手当てを必要としているのかを考えます。まずは店舗数が20%増加するのであれば、これらの店舗の店長をどこで探すのか? 労働市場で探すのか、それとも社内で育成するのか? そして、新店舗の店員はどのような人材が必要なのか等々、人に関しての多くの要求が見えてきます。これらを総合して、まず、これからの中長期の期間にどのような視点で人材を育成し、動機付け、戦略達成を支えるかについて骨太の方針を出します。そして、この骨太の方針に沿って、採用や報酬と言った個別分野の戦略を立ててゆきます。
このようにして、経営戦略を支える人事戦略が生まれ、この人事戦略を出発点として、制度全体を設計してゆきます。これによって、個々の制度が常に経営戦略を支えていると言うことが担保され安心することができます。
以上、今回は一つ目の基本要素を具体的に見てみました。次回は二つ目の基本要素である、「経営戦略を支える組織構造/役割に根ざした」制度とはどのようなものかについて考察します。
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