前回は、社員が生き生きと気持ちよく働くための環境として、長期的なキャリアが見えていることが大切だと言うお話をしました。今回は次の基本要素である、「やった仕事の全体がきちんと評価されて、気持ちよく働くことができる」制度とは、具体的にはどのようなものなのかを考えて見ましょう。
現在、社員の仕事全体の出来栄えをきちんと評価している会社は大変少ないと言うのが実感です。特に、いわゆる成果主義を入れている会社で、評価制度に納得性が無いと言う不満を抱いている社員が大変多いと言う調査結果が出ています。成果主義では、社員に期待されている成果をどれだけ出したかを評価するはずです。その成果という言葉が、成果イコール数値という誤解を生んで、結局数値主義に陥ってしまったと言う会社が大変多いのです。そして、これが、成果主義はだめだと言う、マスコミで騒がれた状況だと筆者は考えています。
では何故、仕事全体の出来栄えをきちんと評価できないのでしょうか?それは、仕事なり役割なりが明確になっていないからです。仕事/役割の全体をどこまでやってくれたのか、それを評価するには、そもそもその仕事/役割にどんな貢献を期待しているのかを明確にする必要があります。その方法は、本連載の第5回目「組織構造と役割」のところでご説明したとおりです。経営理念・経営戦略実現へどういう貢献を期待しているのかと言う観点で、仕事/役割の全体を4つの視点、7つ前後の数で明確にしておく。この7つ前後で明確にされたものを貢献責任と呼んでいました。
この貢献責任が明確になって初めて目標管理も機能するようになります。つまり、仕事/役割の貢献責任項目すべてに対して目標を立てて、評価はそれらの目標をやったか、やらなかったか。貢献責任項目を基に、そのレベルで組織計画とつき合わせて今年やるべきことを目標とする。ところが通常の目標管理では、部門の事業計画なり課の年度計画なりをいきなりブレークダウンして、目標を立てます。しかし、この方法では、そもそもこの仕事を担っている人の目標のレベルとしてこれでよいのか悪いのか、判断する基準がありません。そこで、私の目標は私にとってみればレベルが高い、難易度が高いなどという議論が出てきて、目標設定もその後の評価も難しくする要素がたくさん入ってきてしまいます。それが、評価者が評価で悩み、被評価者も評価結果に不満が募る、と言う状態を引き起こしてしまいます。
貢献責任が明確になっていれば、それ自体が評価項目となります。そして、評価対象は、各々の貢献責任の目標達成度合いです。まさに貢献責任なくして目標無しなのですね。これで、仕事の全体をきちんと評価して、上司も部下も納得感を持って仕事をしていくことができます。
最後に誤解のないようにお断りしておきたいことが一つあります。ここで言っている仕事の全体の評価はあくまでも基本のところです。給与で言えば基本給につながる部分です。自社の人事戦略の中で、例えば当社はインセンティブとして売上/利益数字の達成度に対して賞与を支給するというような方向性が出ていれば、賞与につながる評価は売上・利益額のみとしてまったく問題はありません。これはあくまでも付加的な部分としてご理解ください。社員が生き生きと働くためには、評価の基本はまず仕事の全体像を評価してあげること。その上で、いろいろな付加的な部分がある、と言うことになります。
以上、「やった仕事の全体がきちんと評価されて、気持ちよく働くことができる」制度の具体像を見てきました。次回は、次の基本要素である、「生き生きと働くために安定的な経済基盤が提供できる」制度とはどのようなものかについて考察しましょう。
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