前回は、社員が生き生きと働くための評価の基本は、まず仕事の全体をどれだけやったかを評価することだと申しました。評価したものに対しては、何らかの報酬を提供することが大切です。今回は、その報酬がどうあるべきかを考えてゆきましょう。ただし、報酬といっても金銭的な報酬もあれば、非金銭的な報酬もあります。後者の非金銭的な報酬に関しては、次回で考察します。今回は、金銭的な報酬です。
社員が生き生きと働くためには、少なくとも給与の基本部分は安定的なことが必要でしょう。前回も申しましたが、日本のいわゆる成果主義は数値主義に陥ってしまっている会社が多く、かつ、数値で評価したものを年俸につなげて、毎年洗い替えで給与が決まっているというパターンを多く見ることができます。これでは、数値の浮き沈みで給与が変動してしまいます。そして、数値を追いかけることに追われ、疲れ果て病んでしまう、という状況があると筆者は思っています。
給与は会社から社員に向けたメッセージです。給与がどういう構成になっているのか、そして、その構成部分のそれぞれが何に対して支給されるのか、と言うことを明確に社員に示すことで、社員の働き方の方向性は変わってきます。例えば、先ほどの年俸制でしたら、我社は数値結果に対して給与を支給しますよ、だから、数値を追いかけてくださいね、というメッセージが社員に届きます。また、年令に基づく基本給であれば、我社は皆さんが年令を積むことを重要なことだと考えているので、年令を重ねてずっと当社で働いてくださいね、というメッセージが届くでしょう。どういうメッセージを届けたいかは、人事戦略、報酬戦略そして、自社の報酬に関する信念を勘案して各社が明確にしてゆくことが重要です。
社員が生き生きと働くことができる、安定した経済基盤を提供する給与制度とは、何もしなくても居るだけで給与が安定的に支払われる給与制度ではありません。きちんと自分の仕事/役割をやっている限り、安定的に支払われる部分を確保した給与制度です。給与は、1種類または数種類の構成要素から成り立っています。一つは毎月支払われる基本的な部分、そして、それに付加して臨時に支払われる付加的部分が大きな柱でしょう。その他に手当類等がありますが、これらに関してはここでは考察の対象外とします。
この基本的な部分を仕事/役割に対して安定的に支給すれば、それ以外の部分、つまり付加的部分はかなり刺激的に支給することも可能です。それでは、仕事/役割に対して安定的に支給するとはどういうことでしょうか。それには、2つの要素があります。一つは各々の仕事/役割に対してどういう給与レベルが確保されているのかということ、そしてもう一つは昇給がどのようになるのかと言うことです。
給与レベルに関しては、この仕事/役割であれば最低限このレベルを保障しますという会社の意向を、社員にメッセージとして送ることが必要です。これは給与体系をきちんと社員に伝えるということです。そして、毎年の給与の改定に関して、どのようなメカニズムで給与が見直されるのかも伝えることが大切です。安定的な支給にするには、給与体系はある仕事/役割であれば、最下限はいくら、最上限はいくらという幅を持たせた体系で、その中を毎年の仕事全体の出来栄え評価の積み重ねで昇給してゆくということになります。また、仕事/役割が変わったからといって、通常の異動であれば、すぐに基本的な給与が大きく変動することが無い様にすることも気をつける必要があるでしょう。
このようにして、基本的な部分の給与はある程度ゆっくりと安定的に上昇してゆくことで、社員は安心して働くことができます。
最後に誤解を避けるために一つだけ。年令給ではいけないのか、という疑問を抱かれた方がいらっしゃると思います。答えは、年令給を入れても結構です。つまり、自社の人事戦略・報酬戦略の中で、我社は年功序列を重んじ、年令に対して給与を支払う、または、モデル的なライフサイクルを社員に歩いていってもらうことが大切で、そのライフサイクルに基づいた給与を支払う、という会社からの確固たるメッセージがあれば、基本的な給与の一部分として年令給を入れる選択はあり得ます。その際には、この選択によって自社の経営戦略の実現可能性が高まるという信念に基づいていることが重要です。ただし、その場合でも、これまで述べてきたとおり、経営戦略と直結し経営戦略の達成を支えるために、仕事/役割に基づく給与部分はきちんと確保することは必要です。従って、基本的な給与が仕事/役割に基づく部分と年令に基づく部分の二本立てになります。
以上、今回は「生き生きと働くために安定的な経済基盤が提供できる」制度を見てきました。次回はいよいよ非金銭的報酬について考察してゆきます。