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職務明確化の方法(全5回)




 

職務明確化の方法(1)


前回の新年のごあいさつで触れたように、ジョブ型雇用を進めるに当たってカギとなる「職務明確化」のやり方・進め方に関して説明してみたい。人事制度の根幹は職務にあるということは今まで折に触れ伝えてきた。職務を中心とする人事制度の概念図は弊社のホームページのみのりコンセプト(1)を参照して頂きたい。

みのりでは「職務」という言葉は使わず『役割』という言葉を使っている。これは従来の職務調査、職務分析という言葉に対する抵抗感を避けるためである。職務明確化の結果として、書いたものとして残すのが「職務記述書」あるいは「ジョブ・ディスクリプション」(みのりでは『役割記述書』)である。これらを作成するに当たっては「職務」「ジョブ」あるいは『役割』(以降「職務」と統一)とは何かを理解していることが必須である。伝統的な日本企業では「人が職務を作る」という言い方で、職務を融通無碍で何とでも解釈できる位置づけとしてきた。従って改めて職務とは何かと聞かれても明確な答は得られず、「職務記述書」の作成は困難を極めている。

みのりでは職務を目的・貢献責任・業務活動の三層に分け、職務記述書にはその根幹となる「貢献責任」を中心に記述することを推奨している。職務とは「全社戦略達成のために期待される貢献の集合」と定義し、一つひとつの貢献すべき内容を貢献責任と呼んでいる。この理解が職務明確化の出発点となる。どのような職務も存在する目的は分かり易いケースが多い。また日々の業務活動も朝の出勤から始まり(今はリモートでZoomの立ち上げから始まることが多い)、関係者との会議・連絡・調整・報告・帳票類の作成等々数え方にもよるが数百数千とある。一番重要なのはその職務の目的達成のために、日々の業務活動それぞれは何のために行われているかを考えることである。同じ会議に出る場合でも、その会議に出ることにより会社に対してどのような貢献をもたらすのかを意識したものでなければ、有意義な会議とはならないであろう。伝統的な日本企業ではこれを考えるのが社員の責任としていたが、人による差が大き過ぎた。それにもかかわらず共同体的な組織では、その差を能力評価で引き取るだけで、組織全体としてのアウトプット向上につなげるという発想はなかった。しかし職務に基づく人事制度あるいはジョブ型雇用を本格的に進めようと思えば、貢献責任を定義するのは会社の責任である。組織を機能的に運営するためには、組織構造を支えるそれぞれの職務にどのような貢献を期待するかを明示すべきであろう。

どのような会社にも、会社としての使命・目的がありそれを達成するための全社戦略がある。その戦略を効果的・効率的に達成するために組織とその構成単位としての職務がある。組織を設計するということは、それぞれの職務の貢献責任を定義することとも言える。一つひとつの職務は全社戦略を支えるという視点から、全社戦略の構成と同じ要素を盛り込んだものとすることを推奨している。会社として売上・利益はもちろんだが、顧客・外部ステークホルダーに対してやって欲しいこと、より良い製品・サービスを生み出すために、あるいは人財育成のためにやって欲しいこと等々、どのような職務であれそれらの領域で何らかの貢献を期待されている。それを明確化し文書化したものが「職務記述書」である。

以上の作業を進めるためにはいくつかの方法とルールがある。全社戦略に基づいたそれぞれの職務の貢献責任の領域を特定するやり方、組織の中のそれぞれの職務の貢献責任の配分の仕方、それを表現するときのルールなど。この基本さえ押さえておけば、それほど膨大な作業をすることなく、それぞれの職務が果たすべき貢献責任が明確となり、会社にとっても社員にとっても大きなメリットが生ずる。みのりコンセプト(1)にあるように、業績評価制度・給与制度の設計が職務に基づいたものとなり、全社戦略に基づいた整合的な運用が可能となる。出来上がりの職務記述書も使い勝手の良いA4一枚ものから作成可能である。

この方法とルールに関してこれからの説明の中心となるが、書いたものはかなりの量になり、理解しにくい部分も出てくることが想像される。従って試みとして、このコラムに書く前にZoomによる無料説明会を開催したいと考えている。2時間程度の説明で全体像を把握して頂き、その上で書いたもので検討頂く方が理解しやすいと考える。実際の案件ではまず面談で資料を使いながら口頭で説明、その上で具体的な実情に合わせ、具体的な進め方を提案していくという手順となるので、それに近い進め方をしてみたい。3月の早い時期を予定しており、決まり次第ホームページ上でお伝えする。ご興味おありの方は是非ご参加頂きたい。人数的には10-15人程度を想定している。


職務明確化の方法(2)


前回コラムで提案したZoomによる無料セミナーを3月16日に実施した。短時間のご案内にも関わらずご参加頂いた方にはお礼を申し上げたい。

ジョブ型雇用を進めるに当たってカギとなるのは「職務明確化」である。しかしその方法を知らずに「ジョブ型雇用」という言葉が独り歩きしている。「ジョブ型雇用」の良し悪しの議論の前に、職務とは何か、それをどう定義するのか、その出来上がりの姿はどのようなものか、等々を知って頂きたい。それを分かって頂けると、今行われている議論の多くの部分は不要となる。「職務」という言葉に対する心理的な抵抗感が多く、その抵抗感に基づく否定的な議論の展開が多いと感じる。そのためにまず「職務」に関する基礎的な知識を身に着けて頂きたい。

人事制度の根幹は職務にあるということは今まで折に触れ伝えてきた。職務を中心とする人事制度の概念図は弊社のホームページ「みのりコンセプト(1)」を参照して頂きたい。みのりでは「職務」という言葉は使わず『役割』という言葉を使っている。これは従来の職務調査、職務分析という言葉に対する抵抗感を避けるためである。

みのりでは職務を目的・貢献責任・業務活動の三層に分け、職務記述書にはその根幹となる「貢献責任」を中心に記述することを推奨している。後述の無料セミナーでは職務明確化の結果としての「職務記述書」あるいは「ジョブ・ディスクリプション」(みのりでは『役割記述書』)の具体例も示している。参加者には「こんな簡単なことか」と驚かれる方もいらっしゃる。しかし多くの日本企業では社員を「能力」という視点でとらえ、「職務を明確化する」あるいは「職務を処遇のための基礎」とすることはしてこなかったのである。

どのような会社にも、会社としての使命・目的がありそれを達成するための全社戦略がある。その戦略を効果的・効率的に達成するために組織とその構成単位としての職務がある。組織を設計するということは、それぞれの職務の貢献責任を定義することとも言える。この作業を進めるためにはいくつかの方法とルールがある。全社戦略に基づいたそれぞれの職務の貢献責任の領域を特定するやり方、組織の中のそれぞれの職務の貢献責任の配分の仕方、それを表現するときのルールなど。無料セミナーではこの基本をお伝えしたいと考えている。

先日のセミナーのアンケート結果は概ね好評で、「職務明確化の方法」の基本的な理解も頂けた。まだ初回で反省点が多々あるものの、実務的なより良いセミナーに出来る確信が持てたため、このセミナーを継続的に実施し職務明確化の方法を広めて行きたいと考えている。前回3月16日の改善点を考慮し、下記要領で実施を検討している。ご興味おありの方は是非一度ご参加頂き、ご意見をお聞かせください。

無料オンラインセミナーの実施要領:

1. テーマ:「職務明確化の方法」


2. 開催予定日’ ※開催は終了しました:


第1回 4月27日(火)

第2回 5月25日(火)

第3回 6月29日(火) 第1回から第3回まで、各回、同一内容


3. 時間:13:30~14:30(1時間)プラス希望者のみ、質疑15分程度


4. 参加人数:15人程度


ご興味がありましたら、こちらからお申し込みください。※募集は終了しました。



職務明確化の方法(3)


前回コラムでご案内したスケジュールに基づき、4月27日に「職務明確化の手法」の第1回セミナーを実施した。1時間の短縮版であったが、セミナー後のアンケートでの評価を見ると、手法のエッセンスはお伝え出来たようである。このコラムでまずセミナー前半部分を解説してみたい。

「職務明確化の方法」具体論に入る前に、最初の15分程「職務・役割を基にした人事制度の全体像」の説明を行った。HPに載せている下記「みのりコンセプト(1)総合的人的資源マネジメント」を使用して、人事制度の全体像を理解して頂くことが目的である。




この図が職務に基づく人事制度の全体像である。人事制度は社員の処遇のための仕組みであるが、同時にその仕組みが会社の理念・戦略実現を支えるものであることが重要である。会社の事業と切り離したところに人事が存在するわけではない。会社の事業を支える人事制度を作る要が職務であり役割である(弊社では「職務」と「役割」を同じものとして扱う)。この図に表されているように、評価制度・給与制度・キャリアプラン制度等の基本的な人事制度は全て職務・役割を基準とする。日本的な人事制度における人事制度の出発点は「ヒト」であり、年齢・性別・能力と言った属人的な要素を基準として制度を構築しており、職務・役割に基づく人事制度とは基本的な構造が異なる。「ジョブ型雇用」を議論する際に、この基本的な構造の違いを理解していないと議論が成立しない。


人事制度は社員処遇の公正さを確保するものでなければならないが、そのよって来るところを「職務・役割」とするか「ヒト」とするかにより、ジョブを定義する意味合いが異なる。ヒト中心人事制度であれば厳密な定義は求められないであろうが、社員処遇の基準としてのジョブ定義であれば統一的な基準で公正さを確保するための厳密さが求められる。


ヒト中心の人事制度の場合「ジョブ」の定義から始まり、記述のルールの説明をすると、無駄なプロセスとして一蹴される。人事制度の基本を変えずに特定の職務に対してのみ「ジョブ型雇用」を導入するのであれば当然の反応である。しかし今回の「ジョブ型雇用」導入を機に、「みのりコンセプト(1)」に示すような機能的な組織運営のための人事制度への転換を考えるのであれば、「ジョブ」の持つ意味を考え直すところから始める必要がある。


以上を理解して頂いてから、職務明確化の方法の具体論へと説明を進めて行く。具体的な内容としては下記の4項目となる。


(1) 職務とは何か?貢献責任という概念

(2) 貢献責任抽出方法

(3 )貢献責任記述の決め事

(4) 貢献責任のクオリティーチェック


次回のコラムでは5月25日実施の第2回セミナーの反応も考慮しつつ「(1)職務とは何か?貢献責任という概念」を中心に説明してみたい。



職務明確化の方法(4)


「職務明確化の方法」も第4回目、いよいよ具体的な手法の説明に入る。前回述べたように機能的な組織運営を目的とする組織においては、「職務・役割」とは社員処遇の基準となるものである。短期的なアルバイトに任せる仕事を、箇条書きでタスクの羅列で済ませるようなものとは根本的に異なる。「職務記述書で仕事の内容を書くと、それ以外の仕事をやらなくなる」「職務内容を記述しようとすると膨大な作業が必要で、人事の重要な仕事が出来なくなる」という声を聞くことがある。これは「職務」に対する認識が欠落しているのと、人事の基本的機能を理解していないところから来ている。

まず「職務・役割」とは何か?前回お見せした「みのりコンセプト(1)総合的人的資源マネジメント」の中心に位置する「職務・役割」とは、「全社戦略達成のために各社員に期待される貢献の集合である」とみのりでは定義している。カギとなる言葉は「全社戦略」と「貢献」である。大きな組織であれ、小さな組織であれその中の個々の「職務・役割」はその組織が求める「企業理念」を実現するための「全社戦略」に基づいて定義・規定されている。職務・役割の定義が無いあるいは曖昧というのは、戦略がないあるいは曖昧だということである。社員は組織に貢献することを求められているが、その貢献は職務・役割を通して発揮されるものである。これはヒトに基づく社員処遇制度を採用していても同じことである。多くの日本企業で組織あるいは職務・役割を管掌するのが人事以外の部署であるのは、社員の貢献と処遇を切り離しているからであろう。しかし社員の貢献を処遇に反映させようという大きな流れの中で、人事は職務・役割を無視し続けられない状況となっている。「職務内容を記述するのは膨大な作業で、他の重要な仕事ができなくなる」と言って職務・役割の明確化を避けていては、人事の仕事はできないのである。

「膨大な作業」となるような職務・役割の明確化を想像してしまうのは、職務・役割の定義とそれに伴う構造を理解していないからである。タスクの羅列程度の認識しかないのであれば、重要な職務・役割を書き表すことは至難の業となろう。しかし職務・役割を「貢献の集合」というとらえ方が出来れば、次はその構造を理解することが必要となる。どのような職務・役割にも組織内における目的が存在する。同時にその目的達成のための様々な日常業務が存在する。一般的にはこの日常業務が仕事と考えられているが、「社員に期待する貢献」という視点に立てば、実は職務・役割にはもう一つの重要な要素が存在する。それは「目的」と「業務活動」をつなぐ、みのりが「貢献責任」と呼ぶ要素である。この「貢献責任」こそが「職務・役割」の定義に基づく実体である。既に本稿の初回で触れたように、職務・役割は3層構造になっている。日常の業務活動には朝出社することから始まり、在宅勤務の場合はパソコンの立ち上げから始まり、メールの送受信、報告書の作成、会議(オンライン会議)への参加、関連資料の収集・分析、計画案の作成、関係先との調整等々数え上げれば数百以上もの業務活動が挙げられる。業務活動という視点に立てば、経営トップから末端の社員に至るまで同じ仕事をしていると言える。従ってこの業務活動が会社の期待する「貢献」の中身ではありえない。もう一歩踏み込んで、それぞれの業務活動が何のために行われていて、その業務活動の結果として何を生み出すことを期待しているのかを明確にして、初めて「貢献する」という視点での職務・役割を明確化したと言える。「職務・役割」の3層構造は下記のような図になる。第1層が目的、第3層が業務活動、その間に第2層として「貢献責任」とみのりが呼ぶ「職務・役割」の肝とも言える最も重要な層がある。




「貢献責任」を定義するという視点から職務・役割の明確化のプロセスを見ると、決して作業内容を細かく掘り出して羅列するような「膨大な作業」ではない。全社戦略を理解し、それに基づき組織を支えるそれぞれの社員にどのような「貢献」を期待するのかを考えるという、極めて知的なプロセスである。これは組織を機能的に動かしていこうとすれば、必須事項だと言えるが、過去多くの日本企業では軽視されてきたプロセスである。この知的なプロセスを目に見える化・簡潔化して整理したのがみのりの「職務・役割定義の手法」である。次回はこれに基づき「貢献責任」を業務活動からどう抽出するかの手法の説明に入りたいと考えている。

なお次回無料セミナーは6月29日火曜日13:30からを予定しており、これが最終回となる。今後の予定としては、職務・役割の明確化の後は、職務に基づく人事制度の基本とも言える「職務・役割の重要度測定」の解説を行いたいと考えている。 皆さんの反応を見て必要あれば、「職務・役割明確化の手法」を改めて企画したいと考えている。


※セミナーは終了いたしました。


職務明確化の方法(5)


6月29日に掲題セミナーの最終回を行った。方法論の詳細が続いたせいか、参加者は前回までと異なり少人数であった。しかしセミナー終了後かなり実践的な質問が提示され、注目度の高さを感じさせられた。時間が経ってしまったが、「職務明確化」の最後の締めくくりとして「貢献責任の抽出方法」と「貢献責任記述の決め事」を説明してみたい。

前回までで職務・役割の定義から始まり「貢献責任」という考え方を説明させて頂いた。職務・役割の構造を理解して頂ければ、この概念の重要さは理解して頂けたと思う。次の課題は膨大な業務活動からなる職務・役割からどうやってこの「貢献責任」を抽出するかである。このやり方にはトップダウンによる方法とボトムアップによる方法の二つがある。30年前、職務分析を始めた頃は、ボトムアップによる抽出が一般的であった。社員を集めてどのような業務活動をしているかを書き出して頂き、それらが何のために行われているかを確認しながら、それぞれの社員の「貢献責任」をギリギリまで絞り込み、特定するというプロセスを踏んでいたのである。これは大変時間と労力のかかるプロセスであったが、当時はこのプロセスそのものから得られることが多いとの評価を頂いていた。特に会社の根幹を支える職務・役割に対する経営トップの考え方と社員の考え方とのズレが具体的に表面化したのである。「貢献責任」は単に概念的な理解だけでなく、この記事の後半で述べるように明確な記述を求められるため、その「ズレ」が「見える化」されたのである。このズレの修正は、社員の職務・役割に対する認識を修正する機会となり、その結果が公式に文章化されたのである。

もう一つのトップダウンによる方法は、経営トップが求める社員の貢献責任のあるべき姿を最初に提示する方法である。経営戦略の重要性が浸透してきた最近はどの会社でも必ず経営戦略が明示されている。それを個々の管理職・社員の職務・役割にまで具体的にブレークダウンするのが、「貢献責任」を明確化するトップダウンによる方法である。以前みのりのコラムで「思いの実現を支える組織づくり」を書いたことがある。多くの会社では組織の構造は示されるが、その構造の持つ目的・求めるアウトプットが、その構造の中に位置づけられた個々の職務・役割にまで落とし込まれることが少ないことを指摘した。みのりコンセプト(1)の絵が示しているように、職務・役割は経営戦略とそれに基づく組織構造から引き出されるものであり、このプロセスが無ければ組織構造は絵にかいた餅に終わってしまう。

トップダウンによる方法のもう一つの形は、上司の貢献責任から部下の貢献責任を抽出する方法である。上司の貢献責任が示されれば、部下は自分の貢献責任の在り方を考えやすくなる。経営トップ自身が考える「貢献責任」の在り方がその直下の経営幹部の職務・役割に正しくブレークダウンされていれば、その貢献責任に基づき、それより下位の部下の貢献責任を的確に記述することが可能となる。

トップダウンによる方法を取ることにより、貢献責任の大枠が決まると全ての職務・役割の貢献責任を明確化するプロセスは大幅に簡略化され時間的にも短縮される。実際にはトップダウンによる方法とボトムアップによる方法を組み合わせることにより、現場で行われている重要な価値創造の業務活動が浮かび上がり、全社的により良い貢献責任のリストが出来上がることにつながる。

「職務明確化の方法」最後の項目は「貢献責任記述の決め事」である。極めて初歩的な内容であるが、これが「貢献責任」の質を高める上で大変重要な要素となる。記述の基本ルールは下記の通りである:

(1)「~を~する」と言い切る (2)一つの文には一つの貢献責任 (3)貢献責任の個数は5-9個 (4)中長期的に妥当する表現

当たり前のことの様であるが、30年間、様々な企業で実施した経験からはこれらが守られないことが多いのである。実際に自身の職務・役割の貢献責任であるという認識のもとに、明確に書いたものとして残ることを考えると、「~を~する」と一つに絞り込んで書くことに抵抗を示す社員は多い。結果として、例えば開発担当の職務・役割であっても「〇〇商品を開発する」とは言い切れず、「開発を検討する」「開発を図る」「開発を管理する」等々の曖昧な表現にしたがる傾向がある。単純でいて更に重要なのは(3)の数の制限である。これには両極端の反応がある。一つは「私の責任は売ることであるから、売り上げを拡大するだけで充分である」というもの。しかし特に管理職の場合「部下の育成」あるいは「売り方の質・効率」「顧客・外部との関係」等々はどうするのかということは考えていないケース。もう一つは逆に「私の仕事は様々なことをやっていて、とても9つに絞ることは出来ない」というもの。業務活動が自身の職務・役割だと思い込んでいるケースである。業務活動はより良く貢献責任を果たすために変えて行かなければならないという発想が出来ない。たった4つの基本ルールであるが、これを守ることにより、組織運営上様々な効果が期待できるのである。その効果についての説明は別の機会に譲りたいと思う。

5回に渡り「職務明確化の方法」について書いてきた。技術的な内容であるが、これを進めて行くことの会社経営にとっての意味は大きいと思っている。「ジョブ型雇用」という言葉が様々なメディアを通じて話題に上っているが、肝心な「ジョブとは何か」という一番基本的なところが抜けていて議論がかみ合っていないように見える。ある特定の職務・役割だけを捉えて「ジョブ型雇用」を適用するというような議論は、人事の基本である社員処遇の公平性をどうとらえるかという最重要課題を無視しているとしか思えない。今回の技術的説明はこれで一段落とさせて頂き、次回以降はコロナ禍が続く状況の中での人事の在り方という原点に戻ったコラムを書いてみたい。

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