組織設計の最後は人員計画・人員配置です。出来上がった組織にどのような社員がどのくらいの数必要なのかを算定し、具体的人事異動の指針を作るところまで行います。これまでの詳細設計がしっかりと行われていれば、比較的簡単な方法で算定並びに指針作りは可能です。まず新組織への社員の選定・配置基準は貢献責任の中身となります。内部から選別するか外部から選別するかにかかわらず、貢献責任遂行可能かどうかが必要要件となります。これを満たすと考えられる人物が選別され、その人物が貢献責任遂行を了承することで最終的な配置が決定されます。この原則が大変重要です。会社の期待が明示的に伝達され、当該社員もそれを理解した上で、その仕事に取り掛かること。これはその後の目標設定・評価・異動(昇進・昇格を含む)の重要な出発点となりますし、人員計画算定の基盤となります。従来の組織設計では、詳細設計が不十分なためこの出発点が曖昧で、配置された社員に明確に意図が伝わらず、組織の当初の理念が達成できないケースが多く見られます。
人員計画の算定は、新組織設計の前提条件としての中期経営計画(あるいは長期事業計画等)の中で明示された中長期的な売上高・付加価値率・労働分配率を算定の基礎とします。まずこれらの目標数値を掛け合わせた総人件費を一人当たり目標人件費で割ることにより全社の適正人員が算定されます(→詳細は付加価値分析と総人件費管理に関するコラム「人事制度は世につれ、人につれ:続編」参照)。この時一人あたりの人件費を中長期的にどのようなレベルに設定するかは、どのような人材が採用できるかを決定する大切な指標となります。労働市場で必要要件を満たす人材がどの程度の報酬で採用されているかなどのデータを入手することで、このレベルを設定することができます。社内人材を配置する場合にも、そのような人材の外部流出を防ぐ意味からも、このような報酬レベルの設定は重要と言えます。但しその報酬レベルは、従来のような年齢・学歴・家族構成と言った属性別ではなく、あくまでも役割・貢献責任の遂行要件が前提となります。
平均人件費で適正人員規模を決めましたが、これをそれぞれの機能に配分していくときには、その社員のレベルを考慮します。重要度の高い役割と低い役割では当然一人あたりの人件費は異なります。役割に基づく報酬制度を導入していない企業では、現行制度における報酬レベルが近似的に採用されることになります。組織の長となる役割レベルから末端でアシスタント的役割レベルまで複数段階に分け、新しい組織の使命・目標達成を考え、その最適配分を考えます。新市場開拓のような使命を負った組織であれば、開拓のできる要件を備えた重要度の高い役割を厚めに配置することになるでしょうし、既存顧客が多数あり如何に効率良く売っていくことが求められる組織では、業務を標準化して簡単な役割レベルの社員を増やす方が効果的でしょう。このような考え方で中長期的なそれぞれの組織のあるべき人員配置を、人件費を横目でにらみながら決めて行きます。現実的な人員配置はそれぞれの組織の長が、こうして決められた指針に基づき決めて行くことになります。
組織が中長期的に成長していくダイナミズムを考慮すると、配置された社員の成長も含めた人材の拡大プロセスを包含した人員計画が必要となります。中長期の計画の中での事業展開(売上・利益)はそれを支える人材の育成・確保と表裏一体です。これを考えて行く上で役に立つのが「キャリアマップ」と呼ばれる役割の分布図です。新しい組織が貢献責任に基づく役割を中心に設計されると、結果としてそれぞれの組織・機能分野で必要とされる役割が、重要度の順番に並びます。そこにそれぞれの役割の遂行要件を加え一覧表にしたものが「キャリアマップ」です。つまり、「キャリアマップ」には、各々の役割が求める貢献責任と、それを遂行するために必要な情報(必要なスキル、知識、資格、経験等々)の両方が示されます。一方、配置された人材の情報(現在のスキル、知識、資格、経験等々)を、この「キャリアマップ」に入れ込んだものを「人材マップ」と呼びます。これは現状の「人材マップ」です。新組織が機能するためには、この二つのマップのギャップを埋めることが求められます。新しい組織が設計された方向に動き出すためには、このギャップをどう埋めていくか、これは組織設計の中に人材育成・採用の長期的な視点が盛り込まれたことを意味します。新組織の長は中長期の事業計画に基づく目標達成のために、必要な人材の育成・採用の貢献責任も負うことになります。中長期の目標達成の道筋が、単なる売上数値だけでなく、人材の成長過程も含めたダイナミックに捉えられる組織設計とも言えます。第6回「組織構造設計」で紹介したナヤ博士の指摘のように、「組織とはその目的・使命を果たすための動的なプロセス」です。それが実体化される組織設計がみのり流の組織設計と言えます。