前回は、当社の付加価値構造が競合企業と比べてどうなのかが、分かりました。
今回は、この比較結果を基に、当社の目指すべき付加価値構造の方向を設定してゆきましょう。 目指すべき付加価値構造を設定するときの拠り所は以下の2つです。
(1) 当社の付加価値構造の特徴(=競合企業との差異)
(2) 当社の経営方針・中長期経営計画
一つ目の当社の付加価値構造の特徴は、前回の付加価値構造の比較で見えてきた競合企業との明確な差異です。例えば、当社が高労働分配率/低給与パターンであったとしましょう。そうすると、方向性としては、労働分配率を下げつつ、1人当たりの給与を上げてゆくということになるでしょう。
二つ目は、当社の経営方針および中長期経営計画です。これらを実現するために総人件費管理をするわけですから、おのずと決められてしまう部分がかなりあります。まず、中長期経営計画では通常、目標売上高、経常利益は設定されています。従って、これらを目指すべき与件とすることになります。また、付加価値率に関しては、経営計画から算定される場合には、それが与件となりますし、算定されない場合には、付加価値分析で算定した現状の付加価値率が与件となります。通常は、付加価値率を上げて行ければ悩みは無いわけで、現在の付加価値率をそう上げられないということを与件として総人件費管理を行うことが多いです。さらに、経営方針等で、従業員数に関係する項目がある場合があります。例えば、「我社の人材は宝である」などと宣言されていれば、人員を削減するという方向はとらないことが与件となりえます。
上記(1)、(2)に基づくと、総人件費管理の観点から目指すべき方向を設定する際の一般的な与件は、①売上高、②経常利益、③付加価値率でしょう。これら以外で、設定することのできる自由度があり、かつ設定しないと付加価値構造が算定できない項目は以下の2つです。
(1) 労働分配率 (2) 1人当り人件費
もちろん、中長期経営計画が精密に設定されている企業の場合には、企業維持費(コスト)もその中で設定されていて、従って労働分配率を設定する自由度も無いという場合もあります。ただし、そのような企業では、すでに労働分配率が設定されているわけですから、わざわざ付加価値分析をする必要は無い企業だということになります。つまり、付加価値分析が必要とされるのは、労働分配率が決まっていなくて、総人件費をどのように設定すればよいのかを迷っている場合です。
また、付加価値経営計画を採用し、付加価値構造を基に経営計画をたてる会社もあります。そのような企業では、経営計画の設定と上記の付加価値構造の設定が同じになりますので、各種の項目を設定する自由度があるということになります。
与件を勘案して、会社として目指すべき方向を設定するのですが、その例は以下のような形になります。 目指すべき方向例:
(1) 現状の分析結果より、当社は高労働分配率/低給与パターンであった。 その他の分析結果とも合わせると、当社としては、労働分配率を下げつつ、 ターゲット企業の給与レベルに近づけてゆくことが必要である。 (2) 付加価値率は、現状の35%を維持する。 (3) 売上高は、中期経営計画の通り、2015年で300億円を目指す。 (4) 売上高経常利益率は、中期経営計画の通り、2015年で15%を目指す。 (5) 付加価値経常利益率は、上記の(2)と(4)により、43%となる。 (6) 労働分配率は、競合他社の状況(30%が中心)と現状(40%)を考慮し、 30%を目指す。 (7) 1人当り人件費は、ターゲット企業レベルの、900万円を目指す。
これで、目指すべき方向は設定されました。次にこれらの方向に基づいて、そのほかの全ての数値を算定して、モデル付加価値構造を構築します。次回は、モデル付加価値構造の構築を見てゆきましょう。
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