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  • 執筆者の写真齋藤 英子

正社員と非正社員の壁をなくせ~高齢者就労促進を例に~


 

2015年12月3日の日本経済新聞朝刊の経済教室に、川口 大司 一橋大学教授の「円城寺次郎記念賞受賞者論文(下)正社員制度改革が不可欠」が掲載された。全くその通りだと思うことが多い記事であった。今から35年後には65歳以上の人口は、現役人口に対して71%にもなるそうである。従って消費税増税と並び、どうしても女性就業率の向上や高齢者就業の促進が必要で、そのためにはどうするべきかを労働経済学の視点から解説している。その中で、日本の高齢者の就業率は、既に他の先進国に比べて高い水準だそうである。ただし、問題は就業率よりも非正社員比率であると教授は指摘している。高齢労働者の正社員就業促進のためにも、解雇ルールの明確化が必要とのことである。

確かに、高齢者の就業促進は大切なことである。ただ、正社員と非正社員という区分けが必要なのであろうか?「正」も「非」もなく、全員が社員であってはいけないのだろうか?

高齢者は多様で柔軟な働き方が必要:

高齢者は、体力もライフスタイルも非常に多様である。体力もあり、仕事生活をこれまで通り続けたい人もいれば、体力はあるが、これからは自分の趣味や孫の世話と言った生きがいとともに、仕事を通して社会とつながっていたいという人もいる。これも日経新聞の記事であるが、12月12日の「働き方 NEXt 老いに克つ」では、すでに「シニア4人で正社員1人分」働く仕組みを作っている例も紹介されている。

柔軟な働き方で活き活きと働けるためには、それなりの処遇が必要:

これまでの高齢者への処遇は、定年年齢に達した途端、仕事は変わりがないのに、正社員ではなく契約社員のような身分となり、給与だけ半分になるというような、人間のモチベーションを下げましょうと言わんばかりの制度。なぜ、このようなことが起こるのかと言えば、年功序列の給与制度で、年齢が高ければ給与が高くなり、定年年齢以上で働いてもらっていたら、高給となってしまうからである。まったく、本末転倒なシステムと言わざるを得ない。

多様で柔軟な働き方をしてもそれなりの処遇をするには、正も非もなくみんなが社員で、彼らの仕事/役割に対して処遇することが必要:

週に1日や2日だけ働きたい、あるいは毎日午前中だけ働きたいなどの多様なニーズに応え、かつ、その時間でやった仕事に対しては、きちんとそれなりの処遇をするためには、「ヒト」を軸にして処遇することは不可能である。つまり、その仕事に対して報いていくことで、仕事のやりがいも高め、働いていこうという気持ちも高める。

ここまで、高齢者の就業促進に焦点を当てて、正社員と非正社員の区分けを無くし、全員が社員で、各社員のニーズに基づいて、柔軟な働き方を許容し、それなりの処遇をすることが大切であることを述べた。

これは、高齢者の就業促進だけではなく、実は女性の就業促進にとっても同じことが言えるのである。そして、女性だけでなく、実は現在大きな問題となっている、若い人たちの非正規労働による雇用不安や貧困という問題に対しても、同じことなのである。

正社員と非正社員の区分けを無くして、柔軟な働き方で、それなりの処遇ができるようにするための必須条件は、「ヒト」ではなく、やった「仕事」に対して報いることのできる人事制度に転換することである。高齢者の就業促進、女性の活躍、若い人たちの仕事の確保は、待ったなしの課題である。それに向けて、是非とも企業の人事制度が変わってゆくことを願うものである。


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