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  • 執筆者の写真齋藤 英子

【第5回】付加価値構造の比較ポイント


 

前回は、比較すべき会社を選択して、その付加価値構造を算定しました。ある会社の例で、その算定結果を棒グラフにしただけでも、自社だけで見ていたときとは違った様相を呈してきたところでした。つまり、その会社の例では、自社だけで見ていたら利益率が高いように考えられたのですが、競合企業3社と比べたら、その内の2社は当社より利益率が高いという状況でした。

今回は、算定した付加価値構造を他社と比較するときの、比較のポイントを述べたいと思います。見てゆくべきポイントは以下の4点です。

・付加価値率

・労働分配率と1人当たり給与賞与

・企業維持費率

・経常利益率

これらを観察・分析してゆくと、各社の付加価値構造の特徴、そしてそれらと比較した当社の付加価値構造の特徴がまとめとして、見えてきます。

それでは、各々についてご説明しましょう。

① 付加価値率:

付加価値の内部構造に入る前に、まずは付加価値自体がどうであるかを比較しておくことが大切です。付加価値率は付加価値総額を売上高で割ったものです。これを競合他社と比較してその状況をつかんでおくことが必要です。もしも極端に低いような場合には、その原因を突き止めておかなければなりません。有価証券報告書があれば、事業の内容、従業員の状況、そして売上原価の内訳の部分で、大体のことが見えてきます。どのような事業展開をし、なぜ外部購入価値が大きいのか、売上原価の中で大きな費用は何なのか等から、その原因が分かることが多いです。

② 労働分配率と1人当たり給与賞与

労働分配率はもっとも興味があるところです。ただし、労働分配率の高低のみでは実態を把握するのには足りません。労働分配率が高くても、社員1人当たりの給与賞与が低い場合もあります。あるいは、労働分配率が同じ位でも、給与賞与に大きな差があることもあります。これを他社と比較することで、当社は何が問題なのか、あるいは問題が無いのかが見えてきます。1人当たりの給与賞与を上げてゆくには、付加価値率をあげるか、売上高を上げるか、あるいは人員を減らすかの3つの選択肢があります。ここでは、まずどういう状況なのかを分析しておき、次の「目指すべき方向を設定する」というステップで、どういう方向でどうしてゆくかを会社として決めてゆくということになります。

③ 企業維持費率

企業維持費はほぼ固定費と考えて良いものです。コストは低いに越したことはありませんが、ただ単に低ければよいというものでもありません。ここは、その内訳を見てゆけば、その高低の理由は良く見えます。たとえば、ある会社では企業維持費率が非常に低かったのですが、その内訳を良く見てみると、社員への教育投資が殆どなされていなかったということがありました。この場合には、会社の将来を支えてゆく社員の育成に鑑みて、ある程度の企業維持費率の増加と言うことを視野に入れることも選択肢の一つとなります。

④ 経常利益率

付加価値における経常利益の率です。これは高いに越したことはありませんが、これも内訳を良く見て、その高低の理由は明確にしておくことが必要です。関係会社からの配当が大きく寄与している会社もありますし、労働分配率の高さから利益が圧迫されているところもあります。これらの理由を明確にしておけば、「目指すべき方向を設定する」時に考えやすくなります。

⑤ 各社の付加価値構造の特徴

こうして上記の4項目を比較分析すると、各社の付加価値構造パターンが鮮明となってきます。例えば、競合企業のA社は高コスト/中給与パターン、B社は高付加価値率/高給与パターン、C社は中労働分配率/高給与パターンで、それに比べて当社は高労働分配率/低給与パターンである、などです。こういった特徴が分かれば、次ステップでどういう方向に持ってゆくかが大変考えやすくなります。

これで、当社の付加価値構造が競合企業と比べてどうなのかが、分かりました。

次回は、この比較結果を基に、当社の目指すべき付加価値構造の方向を設定します。

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