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  • 執筆者の写真齋藤 英子

【第3回】 6つの基本要素


 

前回は、これからの安定低成長経済、少子高齢化社会が要請する新しい人事制度のキーワードを考察しました。一つ目のキーワードが「経営と直結し、経営戦略の達成を支えてゆくことのできること」、二つ目のキーワードは、「社員が生き生きと気持ちよく働くことのできる環境を提供できること」でした。

これからはこの2つのキーワードを兼ね備える人事制度とは、いったいどのようなものなのかを見てゆきましょう。まずは、これらのキーワードが要求する、人事制度の6つの基本要素を考察してゆくことにします。

一つ目の基本要素は、「経営戦略を支える人事戦略を持つ」ことです。低成長時代を乗り切ってゆくための知恵の結晶が経営戦略です。その達成を支えてゆくためには、経営戦略に直結した人事戦略を人事の知恵の結晶として持っていることが必要です。

そして二つ目の基本要素は、「経営戦略を支える組織構造/役割に根ざしている」ことです。組織構造は、経営戦略を達成するのに最適と考えられる形で設計されるはずです。そして、入れ物としての組織構造の中には、その中身としての役割が分担されます。会社はこの構造、この役割で安定低成長経済の中で戦略を達成しようとしているわけです。人事制度は、まさに、いかにこれらの役割にやる気のある人を配置し、その役割を全うしてもらうかということを通して、経営戦略達成を支えて行くことになります。

三つ目の基本要素は、「生き生きと働くための長期的なキャリアが見えている」ことです。我社にはこういうキャリアパスがあり、こういうキャリアの可能性があるということが提示されていることによって、自分の人生を積極的に組み立ててゆくことが可能となり、生き生きと働くための源泉となります。

四つ目の基本要素は、「やった仕事の全体がきちんと評価されて、気持ちよく働くことができる」ことです。現在一般的に言われている「成果主義」では、数値結果のみで仕事のできばえを評価してしまう会社が多くあります。その結果、財務的な数値目標を持っている人はノルマ的に数値ばかりを追いかけざるを得なくなり、一方、間接部門のような財務的な数値目標のない人たちは、本来、質的な向上を期待されている仕事にもかかわらず、無理やり意味のない数値目標を立てて、その結果で評価されるようなことが起こっています。これでは気持ちよく働くどころではなく、単に数字に振り回されているだけです。その人の担っている仕事、役割の全体がきちんと把握されていないと、やった仕事の全体をきちんと評価することはできません。自分の仕事全体のできばえがきちんと評価されれば、気持ちよく仕事に励むことができるはずです。

五つ目の基本要素は、「生き生きと働くために安定的な経済基盤が提供できる」ことです。少なくとも基本的な給与は安定していなくては、安心して働くことはできません。安心して働くことができなければ、生き生きともできないし、ましては気持ちよく働くことも不可能です。

そして最後の六つ目の基本要素とは、「お金のみならず、精神的な充足をも考慮している」ことです。バブルの時代、とにかく給与が高ければ、良い生活ができ精神的な充足もついてくると考えていた節があります。そして、人を蹴落としても出世しよう、部下を育成する時間があったら自分の数値目標達成に走り回ったほうが良いというようなことがありました。会社はギスギスし、その後の不況期にさらに追い討ちがかかりました。社員が生き生きと気持ちよく働けるようにするには、色々な価値観を持つ人が色々な働き方で、自分らしく働けることが必要です。

以上、今回は6つの基本要素の全体を見てみました。次回からは、各々の基本要素がどのように具体的な制度に落とし込まれるのかを順を追ってみてゆくことにしましょう。

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