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  • 執筆者の写真齋藤 英子

【第6回】長期的キャリア展望


 

前回までは、これからの人事制度の一つ目のキーワードである、「経営と直結し、経営戦略の達成を支えてゆくことのできる」制度に関して、二つの要素から具体的に見てきました。

今回はもう一つのキーワードである、「社員が生き生きと気持ちよく働くことのできる環境を提供できる」制度の最初の基本要素である、「生き生きと働くための長期的なキャリアが見えている」制度とは、具体的にはどのようなものなのかを考えて見ましょう。

それは一言で言ってしまえば、長期人材育成方針に則ったキャリアプラン制度です。これは、社内にどのような役割があるのかがキャリアマップとして示されていて、社員はそれを見て自分の長期的なキャリアを描くことができ、会社はそれを見て、どのような人材をどれだけ採用し、どのような教育が必要で、どのように配置するのかを決定できる、社員のキャリアの全プロセスをカバーできる制度と言えます。



ここで中心的な役割を果たすのがキャリアマップと呼ばれるものです。キャリアマップとは役割の分布図です。横軸には、当社に存在するキャリアの分野、縦軸には、キャリアのレベルが示されています。

マップの中には役割の箱があります。この箱の中には、その役割に期待されている貢献責任と、その貢献責任を全うするために必要とされる知識・スキル・経験が示されています。

このキャリアマップでは、各箱を結びつける線がありません。通常、キャリアパスの図では、下からの矢印でどのような経路で上にあがってゆくかが示されているのが一般的です。しかし、価値観が多様化した現代では、どのような経路で自分のキャリアを考えるかは、社員一人ひとり違っても良いはずです。

そこで、敢えて線で結ばず、社員は自分のキャリアパスを描き、それを目指して研鑽に努めることができるようにしています。企業規模によりキャリアマップの広がりは当然変わってきますが、幅広いキャリアを目指す社員にとっては、外部でのキャリアも視野に入れたキャリアパスを意識できるようになります。こうして、自分の人生を積極的に組み立ててゆくことが可能となり、生き生きと働くための源泉となります。

一方、会社としても、キャリアマップがあれば、短中長期の経営戦略・経営計画達成に必要な役割に就くべき人の質と量を明らかにすることが可能となります。現在の人員をキャリアマップの箱に当てはめ、社員情報を入れ込めば現在の当社の人材マップが出来上がってしまいます。この人材マップを人員計画に照らして、採用に必要な人員や質を明確にでき、その充足のための外部市場からの調達に一貫した方針で臨めます。また、各社員に対しても、どのような教育が必要なのか、キャリアプランに基づくとどのようなローテーション計画となるのか、どこに誰を配置するべきなのか、すべてこの役割を基にしたキャリアマップが土台となって、整合性の有る人材活用が可能となります。

キャリアマップで社員は、社外の労働市場も含めた自分の長期的なキャリアを視野に入れて生き生きと働き、会社は経営戦略の達成に向かって必要な人材を必要なだけ採用、開発、配置し、長期的には業績を向上してゆくことになります。

以上、「生き生きと働くための長期的なキャリアが見えている」制度の具体像を見てきました。次回は、次の基本要素である、「やった仕事の全体がきちんと評価されて、気持ちよく働くことができる」制度とはどのようなものかについて考察します。

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