「『ジョブ型はやさしくない』?」
- 秋山 健一郎
- 2 日前
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更新日:1 日前
2025年11月17日付け日経新聞朝刊「経営の視点」に「ジョブ型はやさしくない 先駆け日立も道半ば、日本流の落とし穴」と題する記事が出ている。「日本企業がジョブ型人事制度を導入し始めて約5年たった」と書き始め、その定着は「必ずしも芳しい状況とは言えないようだ」「個人の自律と成長を促すのがジョブ型人事の一つのはずだが、それを拒む要因が横たわる」と書かれている。そもそもの出発点で大きな誤解がある。ジョブ型人事は個人の自律と成長を促すことが目的だったのか?議論の展開はその後ジョブ型人事導入の代表的企業として日立製作所の例が挙げられ、また専門家の意見が紹介され、結論としては「ジョブ型は働き手にやさしいものではないし、企業にとっても運用はたやすくない。日本企業の多くはハイブリッド型でジョブ型のいいとこ取りを目指している」「社員の腑に落ちない制度は組織に浸透せず長続きしない」と結論付けている。
このような誤解から出発している「ジョブ型人事」が社員の腑に落ちるわけがないし、組織に浸透する訳がない。「人事制度の出発点は社員の公平・公正な処遇を目指すものであり、そのための基準がジョブ(職務)である」というのがジョブ型人事の本来のあり方である。「個人の自律と成長」とは従来の日本的な人事制度の中で長い間議論されてきたテーマであり、それが「ジョブ型人事」という名のもとにまた登場して来ているだけである。本来の「ジョブ型人事」の浸透は、その本質を理解し処遇の基準としての「ジョブ(職務)」を明確に定義し社員処遇の公平・公正感を高める制度の基盤を作ることで初めて実現されるのであって、その根幹をないがしろにして、「個人の自律や成長」などを議論するのは本末転倒である。こんな状態ではジョブ型人事の定着などは未来永劫不可能である。
「ジョブ型は個人任せで弱肉強食」だとか「ジョブ型は働き手に優しいものではない」とか言う表現は全く的外れであり、それは「会社で働くことが弱肉強食であり、働き手に優しくない」と言っているに等しい。ジョブに基づく人事制度と言うのは、社員がやるべきことが定義されていてそれが処遇の原点となっているという単純な仕組みを指している。これは会社経営の原点であり、会社として社員に働いて貰う上で社員に示すべき当然の仕組みである。日本の場合高度経済成長期に出来上がった職能資格制度があまりにもうまく機能したため、その時の運用の仕方が経営者・人事の方々の頭に染み込んでいて、そこからなかなか脱出できない状況にあるというのが実態である。
そういう人たちにとって人事の基盤である「ジョブ(職務)」を定義することは不慣れで苦手であることは想像に難くない。しかしこの基本的な仕組みを理解し、ジョブ(職務)の設計に熟達することが会社の成長に直結し、かつ個人の成長につながる原点であることを理解して欲しい。
