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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

アフターコロナの人事の世界


 

5月25日に緊急事態宣言が解除され、移行期間をおいて段階的に社会経済の活動レベルを引き上げていくこととなった。既に様々な活動が再開され、経済活動の正常化に向けて動き出している。この間日本経済新聞に人事の視点から大変興味深い記事が出ていたので、紹介しつつコメントしてみたい。まず6月9日ウエブセミナー「アフターコロナを考える」で東京大学柳川教授の「DX時代組織・役割を再定義」と題する発言内容。次に6月10日「中外時評」での「成果主義を再起動させよう」と題する主張である。

柳川教授の発言内容はこれからの人事の在り方を考える上で大変示唆に富んでいる。新型コロナウイルス対策としてのテレワークについて「壮大な社会実験を結果としてやったことになる。」その結果として「デジタル技術の活用で非効率だった仕事を改善できることが分かった」「もうひとつのポイントはやらなくていい業務の見直しだろう。在宅勤務が拡大するのは間違いないので、これまでの組織のあり方や仕事の役割分担の再定義は不可欠だ」と指摘されている点である。やらなければならない状況に追い込まれてやってみると、その効果の大きさに気付くことはよくあることである。また「組織の在り方や仕事の役割分担の再定義は不可欠」と優しく発言されているが、現在の姿は「定義」がない状況であり、これを機会に「定義づけすることが不可欠である」と言うことである。「労働時間だけで仕事ぶりを評価する仕組みがいよいよ限界にきている。仕事の成果を幅広く見ていけるように、企業として人事評価制度を変えて行かないといけない。」という発言は次の「中外時評」の論点につながる。

中外時評の論点は「テレワークは働き方のニューノーマル(新常態)として定着しつつある。それに伴い・・・・仕事の成果で評価し、処遇する仕組みをいよいよ整える必要が出てきている」とあり、日本企業の人事評価制度模索の歴史について触れている。成果主義に対する批判は相変わらず続いているが、組織を経営するうえで職務と結果としての成果に基づき処遇制度を設計するのは当然のことであり、それを難しいからと放置してきたのは経営者・人事担当者の責任である。「人を動かすのはお金ではないという点」を議論することが「成果主義を再起動させようと考える企業にとっては有用だ」というのはその通りである。「給料を上げ下げするだけで」人のやりがいや動機付けに繋がると信じて処遇制度を設計してきたのは、「お金が重要である」と自らが思い込んできた設計する側の思想の問題である。そろそろ処遇制度は本来あるべき基準で設計し、キャリア形成はお金とは切り離し、それぞれの「社員が成長を実感できる」ようにしてあげるべきであろう。「上司の指導力」「社員自己研鑽の進めやすい環境」「希望する仕事に移れる機会」などの環境作りのカギも、出発点は仕事・職務・役割の明確な定義づけである。コロナ対策のひとつとしてのテレワークが、伝統的な人事管理の基本的な問題に手を入れる機会となっている。

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