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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

「正社員改革こそ本道」か?


 

6月12日の日経新聞「日曜に考える」の中外時評に興味深い記事が出ていた。表題は「正社員改革こそ本道 一億総活躍目指すなら」である。冒頭「原因の突き止め方が不十分だと対策もピント外れになってしまう」というトヨタ自動車の副社長であった大野耐一氏の言葉から書き出し、これが「一億総活躍にも当てはまる」と指摘。「長時間の残業や休日出勤の根底には正社員の働き方がある」と見定め、「正社員改革こそ本道」と結論付けている。

「一億総活躍」というテーマは大きすぎるので一旦置くとして、長時間労働の原因を見定めることは重要なので検討してみたい。中外時評では「正社員の働き方」が根底にあるとしつつ、「日本の正社員は会社に長期の雇用保障をして貰う代わりに、職務の範囲が限定されず、このため構造的に仕事が増えがちになる」と結論づけている。職務の範囲が限定されずに結果として仕事が増えがちになるのは理解できる。職務の範囲というより、職務そのものが定義されず、曖昧なまま仕事が遂行され、結果としてやり直しとなり時間が掛かってしまうケースが多いのは事実である。しかしこれは「正社員」だからというより、「仕事の進め方」の問題であり、どのような社員に対しても、あるいは経営者自身にも、同じことが起こっているのが実情である。歴史的には長期雇用保障の代わりにこのような仕事のやり方が定着して行ったのかも知れないが、その仕事の進め方を「正社員」というカテゴリーに限定してしまうと、「対策がピント外れ」になってしまうのではないだろうか。

改革の方向として「職務や労働時間などを明確にして雇用契約を結ぶようにする」「(正)社員の多様化を進める」という考え方は賛成である。企業にとって社員はどのような社員であっても重要な戦力である。多様な社員のための多様な雇用形態は理に適っており、既に雇用形態の多様化は進んでいる。しかしこれらを「正規・非正規」という呼び方で分類することに何か意味があるのであろうか。すべての社員に前向きに業績向上に貢献して貰うことが、経営者にとっての使命である。そのために職務を明確化し、経営者が期待する成果を出してもらうことが解決策となると考えられる。

東洋経済オンラインの6月16日付記事に「トヨタの在宅勤務拡充が大騒ぎされる理由、日本企業で何故普及が進まないのか」という記事が出ている。様々な困難が指摘されているが、職場から離れて仕事をする場合「何を基準に人事考課を行ったらいいのか」が難しさとして挙げられている。仕事の評価が、そばにいて顔を見ていないとできないと感じている経営者・管理職が多いことを示している。現実の仕事は社員一人ひとりがそれぞれの役割を認識して結果を出すことにより、会社の業績向上につながるのである。職務を明確化して評価の基準が明確になったかどうかは、在宅勤務のような多様な働き方が導入できるかどうかにも表れていると言える。職務を明確化して雇用関係を結ぶということは、「人」ではなく「仕事」「職務」を評価基準とすることであり、雇用形態・働き方に関わらず、経営者・管理職がその基準を基に評価することができることが前提である。処遇はその評価結果に伴うものであり、その結果を出している社員が前向きに仕事に取り組んでくれるかどうか、そしてその結果として会社の業績が向上するかどうかは、その評価と処遇内容によるのは当然である。

しかしながら「職務の明確化・職務の定義」はそう簡単ではないようである。長い歴史的・文化的な背景があるにしても、多くの企業では従来の「人事考課」的な発想が染み付いていて、「職務」より「人」を見る傾向が強い。中外時評にある「経営者にとって使い勝手が良い仕組み」の根源はここにある。職務を明確化するということは経営者として社員に求める仕事の内容・方向を明示することを意味する。結果が悪ければ半分はそれを明示した経営者の責任である。「職務の明確化・職務の定義」とは経営者の責任を明確化することであるとも言える。「正社員の働き方」に問題があるとする指摘は、その働き方が社員の責任であるかのような響きを持っているが、現実には社員の働き方は経営者の考え方の反映である。その働き方を変える責任は経営者にある。職務の明確化は、その方向での変革を含んでいると言える。社員に責任転嫁するのではなく、経営者自身が変わらなくては、経営は変わらない。長時間労働が変わらない原因は仕事の進め方にあり、仕事の進め方を変えて行くためには、経営者自身が職務を明確化する方向に動き出すことが求められる。

みのりでは定期的に「職務の明確化、職務の定義のためのセミナー」を実施しており、今年も7月6日に実施を予定している。「人事制度基盤としての職務」という位置づけで、どのように職務を定義して行くかをお伝えしているので、ご参考まで

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