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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

【第8回】組織の詳細設計:ミクロデザイン 2) 役割の測定


 

構造設計で明示された、詳細設計の次のステップが役割の重要度測定です。前のステップで特定された貢献責任を定量化するプロセスとも言えます。日本では組織を機能として見ると言う思想が定着しなかったために、組織のミクロデザインに当たる、前回述べた役割の貢献責任特定そして今回のテーマである役割の測定と言う手法は全く発達しませんでした。辛うじて米国系のコンサルティング会社が開発したものを使用してきましたが、日本の実情に合わず使いにくさが改良されずに今日に至っています。今まで述べてきたように、現在日本の企業の置かれている状況を考えると、多様な社員が活躍できる基礎としてのミクロデザインの必要性を再度強調したいと思います。それが「グローバル化」対応の基本中の基本でもあります。

役割の重要度測定には、機能としての組織運営の必要性からくる特徴が端的に表れています。まず測定のための基本ルールを簡単にまとめてみます: 1. 年齢・性別・役職・資格ではなく、役割の内容による重要度測定である 2. 役割の内容とは、明確に表現され記録された「貢献責任」である 3. 書き表しきれない役割内容は、経営層の合意により認定され、その認定内容が記録として残される 4. 測定は体系的な判断をするためのプロセスである

第一番のルールは第二番目のルールと共に、伝統的日本企業の「人」を中心とした組織運営とは全く対照的です。これがグローバル企業として多様な人材の活躍を担保する基盤だと言えます。仕事の内容を特定せず、何でもやるのが社員だという無限定な組織運営に慣れ親しんだ経営管理者には、残念ながら受け入れがたいルールのようです。第三番目のルールは、更に書き表しきれない内容に関する認定・合意まで規定します。「仕事の中身を全て書き表すことは不可能である」と言う言い訳を許さない厳しさがあります。組織を機能的に運営することは、管理者の恣意性をどこまで排除できるかがカギです。曖昧さを残し思い通りに仕事をやらせ続ける体質とは正反対の思想がここには息づいています。その上で、体系的な測定手法を使用し、役割の重要度を測定します。重要度はあくまでも役割の組織内に於ける相対的重要度で、その役割を担う人の重要度ではありません。人はあくまでその役割を果たせるか否かで選定・配置され、その役割の規定(貢献責任)により評価されます。残念ながら日本にはこの関係を正しく認識できる経営者は多くありません。

社員の能力を測定できることを前提として、その格付けを旨とした日本の職能資格制度では、結果としてその人間の格付けが行われ、その人間が負うべき役割が問われることはありませんでした。仕事の議論がなされるべき評価面談は、人物評価の伝達のための面談となり、正常なコミュニケーションが成立し難い状況を作り出しています。しかし組織と言うのはある目的を持ちそれを実現するための機能的存在であるのが基本です。その中に働く社員一人ひとりは独立した人格を持ち、それぞれが対等です。ただその組織において役割が異なることは事実です。差があるとすれば、その役割の重要度が異なるだけです。評価面談は、その役割との比較において、配置された人間がどの程度その貢献責任を果たしたか、果たすために何が必要かの伝達が中心であるはずです。そのやり取りを通してその役割の求めるものへの理解が深まり、より高いレベルの結果を出す方向に成長していくことが、上司・部下双方に求められるのです。「役割」と「人」とを峻別することが、組織を機能として運営してゆくための出発点です。

先ほど触れましたが、この出発点の異なる日本では、残念なことに、役割の重要度を測定する体系的な手法は生まれませんでした。その必要性が認められて来なかったとも言えます。輸入の概念はありますが、どれも一長一短あり、定着していません。そんな中でみのりでは様々な日本企業との共同作業を通じ、独自の手法を開発しました。まだ改良の余地があることは確かですが、人事制度の基盤としての役割を客観的かつ体系的に評価する画期的な手法といえます。どのようなものか簡単に触れます。

測定とはそれぞれの役割の重要度を点数化することです。点数化する対象は、前のステップで貢献責任を特定された役割です。点数化は貢献責任を特定する4つの視点を出発点とします。財務業績、顧客・外部、社内ビジネスプロセス、そして学習と成長の4つです。まずそれぞれの視点に関して、組織の中で重要度が一番小さな役割と一番大きな役割とを対極に置き、その間をある基準に基づき点数配分して行きます。具体的には、例えば財務業績であれば、それを端的に表す「売上」に関して、一番小さな役割を関与度0とし、最大の役割すなわち社長は一番大きく、例えば100とします。この0から100までの間には独り立ちした営業担当職もあれば、営業本部長と言う役割もあるでしょう。その相対的な重要度を測定する尺度を作り上げていきます。顧客・外部に関しても同様に、全く外部と接点のない役割からすべての外部関係者に対する責任を負う役割までを配点します。

具体的な測定には上記のようなプロセスで出来上がった、2枚一組の点数表を使います。一枚目は「財務業績」とそれを直接的にもたらしてくれる「顧客・外部」を組み合わせた表、そして二枚目が「社内ビジネスプロセス」とそれを機能させる「学習と成長」を組み合わせた表の二枚です。この組み合わせには意味があります。上記の例で言えば、売上が0から100まで上がっていく間に、顧客・外部との関係も上がっていく相関関係を示しているのです。社内ビジネスプロセスと学習と成長に関しても同じような相関関係を確認することができます。既にお気づきかも知れませんが、この構成は貢献責任の一つひとつの表現との対応関係を表しています。貢献責任に売上責任が50程度ある役割であれば、顧客外部に対する責任もその程度なければなりません。もし貢献責任の表現にその規定が無ければ、「なぜ顧客外部に対する責任を持たずに、売上責任だけが生ずるのか?」と言う疑問がすぐに出て来る仕組みになっているのです。

日本の企業には役割の重要度と言う概念がありません。全員が同じ仕事をすることを良しとしている企業が多いのが実態です。それなら皆同じ給与でもいいはずなのですが、差は歴然として存在します。逆に昨今はアメリカ的な風潮が浸透して上位職の報酬金額が高騰の傾向にあります。しかしその基本思想が理解されず、やみくもに上位職は高くても良いとするのは危険です。上位職の高報酬を認めるためにはその根底にある役割の重要度にそれなりの意味づけが必要であることは言うまでもありません。

次回は、そのような構成の点数表をどう使うかの説明に移りたいと思います。

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