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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

【第9回】組織の詳細設計:ミクロデザイン 3) 点数表による役割測定


 

役割を測定するということは、役割の組織の中における相対的な重要度を点数化することです。点数化は貢献責任の4つの視点それぞれに関し、記述内容を基に対応する点数表より該当する点数を選択して行きます。選択された点数は役割の相対的重要度を表します。但し厳密かつ機械的な特定は困難ですので、貢献責任の表現が似たような役割で、良く考えると同じとは言えない場合、前後の点数が選べるような柔軟性が盛り込まれています。且つこの点数選択における判断根拠は「覚書」(後述)の中に反映され、以降の点数化の時に反映されることになります。この判断基準がその組織における、役割の重要度を判定する視点となります。これは経営者にとって何がこの組織で大切で、役割の大きさの差別要因となるかを具体的に特定するプロセスでもあります。

具体的には、例えば「社内ビジネスプロセス」と「学習・成長」の組み合わされた点数表において、前者の要素で「組織の最小単位の業務遂行プロセスに影響を与える」かつ後者の要素で「組織の最小単位の組織力を向上させる」という規定があります。これは一般的には「課長」という役割に適した表現ですが、全ての課長に自動的に同じ点数が与えられるわけではありません。業務遂行プロセスの質的・量的な違い、統括すべき人員の質的・量的な違い等、様々な違いがあり得ます。従いその規定の中の点数はそれぞれの違いに合わせ、大中小3種類の点数が選択できるように用意されています。従って同じ課長であっても、それぞれの違いを反映すると結果的に大きな差が出て来ることになります。この違いこそが経営者にとり重要な社員へのメッセージであり、記録され全社的な測定の判断基準として活用されることになるのです。

整理してみますと、測定結果の客観性を保持するために次のような仕組みが導入されていることになります;

1. 役割の内容と点数との連動: 貢献責任との対応関係が明確であることにより、点数のインフレが起こることが避けられます。

ある特定の役割の重要度を上げようとする場合、単に点数を加算することはこの仕組みではありえません。必ず貢献責任の記述に戻り、貢献責任の記述内容を高度化する(より大きな責任を有する表現とする)という議論となります。また逆に貢献責任の記述内容が大きすぎ記述を変更する場合は、点数の減算も同時に行います(この場合削減された貢献責任をどこが引き受けるかも同時に決定されます)。役割の重要度の大きさとは実際に求められる貢献責任の大きさと連動していますので、責任の増加の無い重要度の増加はあり得ない仕組みとなっています。

2. 測定委員あるいは経営陣による議論並びに合意: 測定のための議論は、選別された測定委員あるいは経営陣の主要メンバーにより行われます。誰か特定の人間が恣意的に点数化することを避ける仕組みであり、経営者として重視する視点が、共有化される出発点となっています。

3. 測定基準の明示・記録・保管; 議論の結果は全て「覚書」として記録され保管されることになります。最終的には経営者の頭の中にある、当社にとって役割の重要度を判断する大切な価値観が、それぞれの役割を測定・点数化するプロセスを通じて、実体化されていくとも言えます。経営者の思いが表現されていくとも言えます。

4. 評価との連動: 貢献責任は毎期の目標設定の時の基準となりますし、当然その遂行結果が評価に反映されることになります。以前触れました、評価における「難易度」とういう考え方は、本来組織における重要度を示す概念で、厳密には以上のプロセスを経て初めて確定できるものであるとも言えます。

5. 検証のプロセス: 点数表の構造的特徴から一枚目の点数と二枚目の点数のバランスを比較することで、その役割がどのような特徴を有するか全社的な傾向を把握することができます。その傾向から外れる役割があるとすれば、それを再検討することで、その役割の再測定あるいは特異性の意味づけを確認することができます。また測定結果全体を一覧表にしたとき、特に部門間のばらつきなど、再検討することが可能となります。いずれの場合にしても、変更する場合にはその理由を明記しすることが大前提となります。

測定結果の全体像を見ると、従来の役職呼称だけで判断していた序列感とは大きく異なることが多く、同じ課長あるいは部長でも点数が大きく違うことは一般的です。年功的な運用をしてきた多くの日本企業では、役職は実際の仕事内容とは乖離していることが多いので、当然と言えば当然の結果です。役割を中心とした組織設計は、その組織を効果的・効率的に運用するための仕組みとして、最終的には貢献責任を伴う実態ある役割として表現されます。従ってそこに配置される社員は、それぞれの役割すなわち貢献責任を果たし得るか否かが選別の条件となります。

この測定結果を人事制度に活用する場合は、この測定結果一覧表から、役割等級を構築することになります。測定結果は素点としての点数がそれぞれの役割に割振られていますが、これを等級とするためには、それぞれの組織の人事思想に基づき、等級の点数の幅を決め、それにより、それぞれの役割を等級に落とし込んでいきます。人事制度構築のプロセスでは大変重要なプロセスですが、今回は組織設計がテーマですので、この部分は割愛します。

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