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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

【第12回】ダイバーシティー・マネジメントと人事制度


 

ダイバーシティー・マネジメントが「経営の基本」であるというところから出発して、この稿も既に1年間が経った。この間にも経営環境は大きく変化した。その変化への対応力が会社の強さであり、成長の原動力である。この稿の目的は、多様性を組織に取り込むことにより、変化への対応力を強化できることを理解してもらうところにあった。そしてその鍵となるのが管理職の方々の意識であり、そこに焦点を当てて稿を進めてきた。

多くの管理職は「我々が変わる前に、会社のトップの姿勢、会社の諸制度、部下を含めた一般の社員の意識など、他にも変えるべきものがある」と思っている。しかしこのような取り組みは、どこかひとつを変えれば全てが変わるというものではない。それぞれの要素の相互作用により、徐々に変化していくものだ。その中で一番大きな要素は経営トップの姿勢であることは言うまでもない。ここまで述べてきたことは、経営トップの「多様性を組織に取り込む」という強い意志を前提にしている。その上で多様性を組織に取り込んでいく鍵は、やはり管理職の意識にあると言える。同時にその管理職の行動を支えるものとして会社の諸制度がある。特に人事制度の影響力は大きい。社員全体の意識はこれらが整い、動き出してから変化を始める。

今ダイバーシティー・マネジメントの名の下で、多くの企業で様々な制度が構築されている。しかし根幹となる賃金制度、評価制度に手を加えるケースは少ない。多くの企業は1990年代に従来の年功的職能資格制度から成果主義的人事制度を導入し、今又その再修正を試みている。しかし多様性という視点で人事制度を見直すというところはない。逆にその再修正の過程で、多様性の視点からは逆行する取り組みが行われている。ひとつの例がコンピテンシーによる評価を人事制度の根幹に入れようとする試みだ。コンピテンシーとはよい結果を出すための行動特性を特定し、その行動が取られているかどうかを評価の基準とするものだ。よい結果を出すための行動を限定しているとも言える。既に述べてきたように、期待される結果を出すためのやり方・行動は多様なものだ。そのやり方・行動を特定してその行動のみを評価するという姿勢は、多様性を否定することに繋がる。変化する経営環境の中で新しい事態に遭遇したときに、道を切り開いていくのは過去のやり方にとらわれない新しい発想だ。評価制度そしてその結果としての賃金制度はそのような新しい発想を支援するものでなければならない。管理職が部下を指導するときに悩むのは、既存の評価制度の中では多様性を認めようとする動きを封じられていると感じるときである。部下が既存のやり方から逸脱したやり方で会社の利益率を向上させたときどう評価するか?「採算の悪い既存の大型顧客を切り捨て、利益率の良い新規顧客を開拓してきた」、「重要案件の交渉を勝手に進め、関係者への連絡不十分なまま、受注してきた」・・・結果が良いのだから、よしとするのか。それとも、やり方が悪いから、良くないとするのか?

多様性を組織に取り込むということは、仕事の進め方の多様性を認め、受け入れていくことである。またそのような試みを評価することであり、管理職がその方向で動くことを制度的にも支援していくことである。

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