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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

【第3回】多様性を経営に活かす力を獲得するまでの四段階 


 

多様性を認識しそれを経営に活かすことが出来る力は、「持っているか持っていないか」の二者択一ではありません。その間に微妙な段階が存在します。「持っていない」状態を第一段階、「持っている」状態を第四段階とすると、その間に更に二つの段階があります。多様性を活かすことができるのは、その微妙な段階を乗り越えて到達するのであって、一足飛びに到達できるものではないことを理解しておく必要があります。

第一段階において多くの人は、本人が多様性を認識・意識していると思い込んでいます。「今更そんなことは言われなくても分かっている」、「要は個人差であり、男女差や年齢差、文化の差など関係ない、」「わが社は既に平等な扱いが浸透しており、そんな問題は存在しない」などなど。この段階における人たちに、例えば、どうして欧米の企業には女性管理者の比率が高いのでしょうかと問いかけます。多くの回答は「日本は歴史的にも文化的にも欧米とは違う」、「日本の女性は、そもそも管理職になることを望んでいない」、「第一そんな能力を持った女性はいない」などです。年齢や文化の違いに関しても概ね同じ内容の認識がなされています。男性中心の終身雇用、年功序列に基づいた同質的集団の中で培われた思い込みと言えます。欧米企業においても歴史的にはそのような反対論の中で徐々に多様性が進展してきました。また日本においても中小企業で成長目覚しい企業、あるいは外資系企業においては女性・中途採用・外国人の力を活用せざるを得ず、結果として多様性が広がりつつあります。

第二段階は、まず多様性の何たるかを認識する段階です。例えば「なぜ欧米諸国では女性・外国人の管理職比率がそんなに高いのか」、と素直に疑問に感じることが出発点です。これは多様性を活用する力を持つに至るための非常に重要な段階です。同質的集団の中で阿吽(あうん)の呼吸で物事が進むことは、居心地の良いことです。しかしそこには異質なものを受け入れない、したがって変化を嫌う体質が知らず知らずのうちに身についてきます。変化する環境の中で生き続けなければならない企業にとり、これは致命的なことです。社員が上位者しか見ない体質が形成されるからです。またそのような環境の中では、本当に仕事をやろうとしている人にとっては、管理職は魅力ある仕事とは捕らえられていないかも知れません。第二段階の意味は、その状態がおかしいことと気づくことです。「ひょっとしたら自分は、あるいはこの会社は多様性を認めていないのかもしれない」と。

残念ながらこの第二段階から、一気に多様性を活用できる能力を獲得できる段階に進むわけではありません。次の第三段階は様々なことを試みつつ、困難・試練に直面する段階です。多くの場合この困難さの中で、ずるずると第一段階に後戻りすることもあるのです。しかしながらこの困難さを乗り越える力が、多様性を活用することにつながるのです。自分と異なる意見に耳を傾けることは、従来の効率重視で短時間に結論を出すことに慣れている管理者にとり辛いことです。フラストレーションが溜まります。しかし一度その異なる意見が、事態の改善あるいは新しい展開の鍵となることを実感した管理者は、違いを見出すことに敏感となります。違いが力となることを理解できているからです。しかしこの段階ではまだ辛いことのほうが多いようです。

最後の第四段階はまさに多様性を活用する能力を獲得した段階です。第一段階との決定的な違いは、「違いを見出し理解する能力」が身についていることです。一人ひとりの個性が重要であるという点では同じですが、その前に一人ひとりの違いに気づいている、それを理解している点が決定的に異なるのです。男女、年齢差、文化・経歴などの違いそれぞれが個性の基礎として異なっていることを認め、理解したうえで、その違いを個性として活用していくことの出来る段階です。

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