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【第2回】経営の基本としてのダイバーシティー・マネジメント


 

ダイバーシティー・マネジメントは言葉こそ新しいかもしれませんが、特別なものではなく、経営の基本であるということに触れたいと思います。

企業にとってお客様のニーヅを理解することが出発点です。しかし「お客様」という総称は実態としてのお客様の姿を捉えていません。その中の多様な一人ひとりが何を考え、何を求めているかを理解するのが原点です。どのような製品あるいはサービスをとっても、たとえば自動車でも家電製品でも、お客様の少なくとも半数は女性です。場合によっては半数以上が購買決定権を握っています。ところが企業側の開発から販売にいたる流れを担っているスタッフの大半は男性です。ニーヅを理解する側になぜ女性がいないのでしょうか?これは性別だけでなく、年齢、言語、人種・国籍、経験などあらゆることについて言えます。

多くの大企業が製品サービス提供体制を整えるとき、その組織作りは過去のやり方を踏襲して、日本人男性、プロパー総合職を中心に独自の序列観から人選を始めます。そこではお客様のニーヅの理解という視点より、自社のやり方が優先しています。多くの開発の現場で「良い」とされている仕事のやり方は、データに基づいた理論的で、スピード重視、徹夜も辞さず納期に間に合わせるやり方です。戦後の日本企業のやり方の延長線上にあるといえます。様々な可能性を検討して、じっくり遠回りしながら、かつ社員の生活のことも考えながら開発するなどという考え方は否定されています。

お客様のニーヅ把握に関しても、定量的なデータと合理的な理論・手法に基づいて行われていると言われます。多様なお客様のニーヅをデータと理論だけで把握することは可能でしょうか?例えば定量化できない手触りのような要素、あるいは細かい点への配慮などを大切にする姿勢は、昔ながらの効率重視の姿勢からは出てきません。お客様の多様なニーヅに気付くことは、身近な社内における多様性に気付くことでもあります。社内の会議の席上で、関係者から一見脈絡のない様々な意見が出て来たとき、大半の管理者の反応は、苛立ち結論を急ぐために早々に議論を切り上げてしまいます。その意見の中に重要な将来への展開の種があるとは考えようとはしません。特にそれが女性、年齢差のある社員、外国人、途中入社の社員など自分とは異なる経歴の持ち主からの意見の場合、その傾向が強いと言えます。会議にばかり時間はかけられない、早く次の行動に移さなければ納期に間に合わないなどなど。物事に様々なアプローチがあるということを受け入れられない。実績のある管理者であればあるほど自分流のやり方に固執する傾向が強いようです。結果として従来のやり方の踏襲となり、新しい気づきはありません。

社会・市場は常に変化するものです。企業の中にその変化を取り入れる体制がなければ、社会・市場の変化はつかめません。変化をつかむということは、単に言葉の上で流行語を覚え使うことではありません。その違いを肌で感じ、理解し、受け入れることです。自分流のやり方に固執し続ける姿勢は、その対極にあると言えます。管理者に社内の多様性を受け入れる姿勢がないということは、市場における多様性を理解する視点が欠けていることを意味します。逆に多様性を理解し受け入れることのできる管理者は、市場の多様なニーヅを理解することにより、その企業の成長の原動力となります。ダイバーシティー・マネジメントはその意味で企業経営の基本と言えます。

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