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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

【第4回】多様性を経営に活かす際の障害 


 

多様性を活かすということは特別なことではなく、日常の経営活動の中では当たり前のことです。一人として同じ人間がいるわけではなく、複数の人が集まりある目的のために共同作業をしようとすれば、それぞれの人の違いを能力として活かすことは経営そのものと言えます。大きな組織であれば、部門の違いも多様性の一つとなるでしょう。海外展開をしている企業にとっては国の違い、文化の違いと言ったものも多様性として活用する対象となります。

では何故多様性を活用することが問題となるのでしょうか?また多様性を活かす能力を獲得するまでに複数の段階が必要となるのでしょうか?一つの大きな理由はわれわれが持っている思い込みにあります。人間は様々な体験を通じて世界に起こる様々な事象に対して、それぞれの観方・考え方を身に着けていきます。組織の中においても同様、それぞれの組織で仕事をしていく上でのやり方・考え方を身に着けていきます。このやり方・考え方は、環境変化・組織の方針の変化に応じて随時変更が加えられていくものです。ところが色々な理由で、あるやり方が絶対だと思い込み始めるときがあります。そのやり方による成功体験が強烈だったり、長い間環境変化が少なくそのやり方の正当性が長期間認められてきたときなどです。日本の戦後の企業経営発展の歴史を見ると、高度経済成長の中で製造業を中心とした大量生産に適したやり方が大成功し、効率重視の金太郎飴的やり方が正当化されてきました。そこでは多くの人と違ったやり方をすることを問題視する傾向が形成され、多くの人に今のやり方が最善であると言う強い思い込みが形成されてきたように思われます。

ところが現在は経営環境が大きく変わりました。市場のニーズが多様化し、それに応えるための商品・サービスも多様なものであることが求められます。少子高齢化の中で労働人口構成も大幅に変わり、嘗てのように年次管理された、生え抜きの男性社員中心の社員構成などはまれになってきました。戦後の高度成長期に育ってきた管理職にとって、昔ながらの阿吽(あうん)の呼吸は望めない環境になってきました。彼らの配下に多様な部下(女性、中途採用、外国人、大幅な年齢差など)が配属され、多様性を活かす立場に立たされたとき、大きな問題が生じるのです。例えば同じ考え方が通じない部下を「能力がない」と決め付けてしまう、あるいは彼らから説明の機会を奪ってしまうなどです。部下が効果的・効率的なやり方だと思って提案する内容を、内容を検討する前に拒絶してしまうのです。自分達のやり方とは異なると言う理由だけで。一番良いやり方は自分の知っているこれしかないと思い込んでいますから、それに反したものを受け入れられないのです。

こういう管理職が多様性を活用する能力を獲得するには、まず自分の信じているやり方が間違っているかも知れない、部下の提案に聞くべき点があるかもしれないと言うことに気づくことが必要です。そして気づいた後は多様な部下との会話を開始することが必要です。そこでは多分大きな困難、悩み、不満を感じることと思われます。しかしその中からこそ、自分と異なるやり方・考え方の有用性を実感し、真に多様性を活用する能力が獲得されてくるのです。今までのやり方を繰り返すことは、居心地の良いことです。しかしそこには新しい環境における新たな発見・成長はありません。

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