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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

【第5回】思い込みが作る現実


 

ある将来嘱望されていた女性が退職を決めた。「そういえば彼女は最近結婚したところだ。女性は結婚すると退職するから、長期的視点で採用するのは無理だったんだ」。別の会社ではMBAを持った外国人を同社のマーケティング強化のために採用したが、1年経たずに退社してしまった。「外国人は少しでも条件が良い職が見つかると、すぐ転職してしまう。やはり日本人でなければ駄目だ」。カッコ内は典型的な日本人男性管理職の反応である。

多くの場合退社した人たちにその理由を聞いてみると、結婚や、条件は表向きの理由で、実際の退職理由は別のところにある。ところがそのような掘り下げた議論がされることはまれで、従来からある思い込みに頼った判断をしてしまう。一般的にはステレオタイプ化した「型」に押し込んでしまう。そのステレオタイプ化が更に他の女性・外国人・その他の多様な社員を同じ状況に追い込んでしまい、同じ結果を招来。ますますその思い込みを強化するという悪循環を発生させている。

思い込みによる判断は結論が早くて、同じ思い込みを持っている人間同士の理解を得やすい。知らず知らずのうちに自分達と違う社員を排除してしまい、同じ考え方の仲間同士で居心地のいい環境を形成することになる。しかしそこでは同じ思い込みの再生産が行われるだけで、変化する環境の中で新しい考え方・行動をとることは期待できない。思い込みが現実を作り出す典型例である。こういう風土の会社には女性も外国人も、あるいは他の多様性を持った人材は長く働くことは困難である。

この思い込みの悪循環を断ち切るには、思い込みを持ち続けている人たち自身が、単なる思い込みであるかも知れないということに気付く必要がある。人が新しい事態に遭遇したとき、二つの反応を示す。一つはその事態を従来自分が持っている知識の範囲の中で処理し、分かっているものとして判断しようとする反応。もう一つは何故そんなことが起こったのか、全く新しい事象として観察し原因を探ろうとする対応。思い込みの強い人の傾向は、前者で新しい事態を常に自分の思い込んでいる型に押し込んで判断しようとする。女性が辞めると聞けば、女性とは結婚すれば辞めるのが当たりまえ。余計な詮索は不要と結論付ける。外国人に関しても同じ。そもそもそんな多様な人材は不要だと結論付けることにつながる。

もう一方の対応は、退職の意図を知ったときに何故退職したいのかを、偏見無く聞いてみる。退職の理由というのは各人各様である。特に管理職として重要なのは、その中に自分の会社の問題点が含まれていないかを把握することである。女性・外国人が活躍する会社では、彼らの退職の理由の中に含まれる会社としての問題点を、一つ一つ検証し対策を打ち出している。その対策が結果として日本人男性プロパー社員の働きやすい環境作りにもつながっている。この対応の特徴は、管理職の問題点に対する対応の仕方が型どおりでなく、様々な問題に対し、機敏に先入観無く対応できていることである。

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