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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

【第8回】気付きのための工夫


 

正しいと思い込んでいる管理職に、自分の行動が疎外感を生み出していることをどうやって気付かせるか?いくつかの工夫が必要である。既に触れたように一つのやり方は部下の声を直接聞かせてあげること。今までの経験から効果的だと思われるもう一つのやり方は、科学的なデータを示しながら『違い』とは何かを理解してもらうやり方だ。

例えば男女の違いに関して、最近の脳科学の進歩の結果として報告されている違いを見せる。もちろんこれは統計的な結果であり、全ての男女がこれに当てはまると言うものではない。例えば左右の大脳半球を繋ぐ脳梁は女性が大きく、この影響が様々な行動に現れてくると言われている。言語をつかさどる左脳を中心に理論的な推論を行っていても、女性の場合は右脳との間のやり取りをしながら考える。これは良いとか悪いとかではなく、そういう構造上の特徴があるということだ。実際の場面に現れる例としては、話の内容が様々な関連した題材に飛んでいく。構造的にはごく自然な展開だが、左脳中心に考えている人間(多くの場合男性)にとって見ると、理論的ではないように見える。理論的な議論が大事だと思っている人間にとっては、そのような飛んだ議論をする人間は許しがたい。上下関係で評価する立場にある場合は、『あの人は理論的な議論のできない人間だ』と判断しがちだ。しかしじっくりと聞いてみると、議論している世界が大変広いことに気付く。

男女の違いだけでなく、様々な違いが科学的研究に基づく構造的違いから説明できることがある。このような構造的な違いは簡単に消し去ることは出来ない。そこから出てくる言動は少なくとも悪意に基づくものでないことは確かだ。管理職としては、その言動を矯正すべきだろうか?年齢の差異などにもこのような構造的な違いが在るのかも知れない。しかし構造的な違いだけでなく、中途採用者のように、異なる経歴を持った社員がやはり異なる言動をすることは良く見られることである。このような違いも良くないものとして矯正されるべきものかどうかが問われている。男女の違いを構造的に見ることにより、このような『違い』を矯正すべき対象として見るかどうかという大きな課題を突き付けられたことになる。

多くの場合それらの違いは矯正できるものとして扱われてきた。しかし脳の構造的違いを見せられた多くの管理職は、その無意味さに気付くことが多い。逆にその違いの中に、従来考えていたのとは違う良さを見出し始める。上述した例のように、論理的・直線的なアプローチより、多面的な幅広いアプローチのほうが、場合によってはより豊かな解決策へと繋がることがある。少なくとも従来のやり方だけでは到達し得ない新しい方法を与えてくれる可能性は大きくなる。このようなことに気付いたとき、管理職は異なった言動を否定するのではなくその言動の内容を理解しようとし始める。これが自然な気付きのメカニズムであり、部下の言動を力に変えていく出発点となる。少なくとも彼らのやる気を殺いでしまうような行動は慎むことになる。

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