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  • 執筆者の写真秋山 健一郎

【第10回】対立関係をダイバーシティーの視点から見る


 

意思、感情、思考の伝達が適切に行われ、お互いの理解が行き届いている関係にある相手との協働においては、課題は全て新しい展開への機会となる。仕事においてどのような問題が起ころうとも、お互いの意見を出し合い、より良い解決策を検討し、それが機会となり新しい展開が期待できる。ところが一度その関係が崩れると、問題は問題を呼び、なんでもない事柄さえ大問題化し、事態は悪い方へ悪い方へと展開していく。

そのような関係の崩れはどのようにして起こるのか?又そのときあなたはどのような心理的な状況にあるのだろうか?ダイバーシティー・マネジメントの視点からこの関係を掘り下げていくと、対立関係の構造的な問題が見えてくる。そしてこれを解消しようとすることはマネジメントの基本的な課題であることに気付かされる。

様々な会社で管理職の方に、今抱えている部下、特に異性、中途入社、外国人、年齢の違う部下達との問題を考えてもらう。特に膠着状態にある関係あるいは繰り返し問題の起こる部下との関係を考えてもらう。そしてその問題の共通点を洗い出してみる。そこに見られるのは「あの人はいつも自分の意見に反対する」、「何度話しても意見を変えようとしない」「自分の意見を聞こうとしない」、「あの人は間違っている」などなど。根底にあるのは「自分の意見は正しい。間違っているのは部下のほうだ。なぜなら・・・」。殆どの場合自分の意見を変えようとはしていない。従って部下が考え方を変えない限り、この関係は変わらない。特に部下が女性であったり、年齢的に大きく離れている場合、その人たちに対する先入観がある場合があり、発言される意見の内容にまで踏み込んで検討することが少ないことが多い。「あの人はいつもこうなんだ。これだから女性は(高齢者は、外国人は、、、)駄目なんだ」と思い込みはますます強くなる。冒頭に示したお互いの理解が行き届いている関係にある管理職の姿勢は、これとは対照的だ。自分の考え方が全てだとは思っていない。常に変わりうるものとして、新しい考え方に柔軟に対処しようとしている。部下が異なった意見を言ってきたとき、たとえその人が女性であろうと、外国人であろうとその意味するところを考え、取り入れられるところがあるかどうか聞く姿勢を持っている。

対立関係を考えると上記のように大きくは二つの異なる型が考えられる。ひとつは「自分の意見に固執し、相手は間違っているから変えなければならない」と考えるB型(Blame)。もうひとつは「自分の意見には固執しない。相手の意見を聞いてみる」A型(Acceptance)。その型に至る心理的過程は興味深い。どのような対立関係も未来永劫継続するものは少ない。ただ、その状態が長く続くか、短く終わるかはその人がどのような心理的状態にあるかで変わってくる。これは仕事だけでなく、個人的な対人関係でも同じである。例えば家庭で奥さんは常に家にいて家事をするものだと思い込んでいるご主人がいる。突然奥さんから掃除をして欲しい、洗濯をして欲しいと頼まれると、まずは「驚く(Surprise)」。でも「たまには良いか」と思いやってみる。しかし度重なると「怒り(Anger)」の状態に至る。「いい加減にしろよ。俺は忙しいんだ。」と。それがさらに続くと「拒否(Rejection)」の状態に至る。この状態は危険である。相手を全く受け入れようとしなくなる。家庭でこの状況に至ると、家に帰らなくなることが多い。B型の対立関係は怒りの状態か拒否の状態で生じてくる。このとき「奥さんはあくまでも家で家事をやるものだ」という思い込みから脱しない限り、B型から抜け出すことは難しい。この心理状態が、どのような理由であれ相手を受け入れると言う意味の「受容(Acceptance)」と言う状態にならない限り、A型には移行しない。この心理的段階を、アメリカの心理学者バージニア・サターは、「SARA」と呼んでいる。

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