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職務設計から考える人事制度 職務設計の本質-ヤマト「宅急便」に見る組織と職務の設計-

9 時間前
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職務設計の視点から、日本におけるイノベーションの代表例として頻繁に取り上げられるヤマトHDにおける宅急便の開発・成長の歴史を見てみたいと思います。同社の小倉昌男氏が1971年に社長に就任、経営環境が悪化し業績も低迷する中で1975年に宅急便開発要綱を発表してからの成長の歴史は、様々な記事・出版物で紹介されてきました。ここでは「職務設計」の視点からその歴史を振り返ってみます。


小倉氏は経営者として苦境に立たされた中で如何に経営を立て直すかを考え抜き、「宅急便」という未開拓の分野への進出を決断したのでした。当時の業界では支配的であった「小口の荷物は手間がかかり採算が合わない」という考え方に疑問を持ち、小口配送のシステム化・事業化の検討を始めました。この発想を実現するには、新しい事業の構想を具体的なサービスとして設計するとともに、それを実行できる組織と仕事のあり方を考える必要がありました。宅急便の開発過程を職務設計の視点から見ると、特に注目されるのが、顧客と直接接するドライバーの役割の捉え方です。1975年発表された「宅急便開発要綱」の中でその基本的な考え方を打ち出し、若手社員を中心としたワーキンググループが商品開発を進め、1976年1月に「宅急便」が誕生したのでした。もちろん成功に至るまでの道のりは大変なものであったと想像できます。有名なのは社内での反対論、旧運輸省・旧郵政省との交渉、配送センター等のインフラ構築、大口取引先である三越との決別等々。


しかし私が一番感銘を受けたのは、これを実現するための組織運営に関する小倉氏の次の発言です。「宅配便の荷主は不特定多数の家庭の主婦である。毎日出荷の場所が変わる。・・・結局第一線のドライバーがアンテナを張り、出荷の情報を掴んで対応する以外に方法はない。そこでヤマトでは宅急便を始めるに当たってドライバーを中心とした営業及び作業の体制を作ることとし、ドライバーの呼称をそれまでの運転手からセールスドライバー(SD)に変更した。」「宅急便も郵便小包も基本的には集配作業、仕分け作業、輸送作業という具合に、分業体制で仕事を進めていることに違いは無い。ただ宅急便を扱うヤマトの社員は目的をはっきり理解していてその達成に責任を負っている」「セールスドライバーはサッカーチームの優秀なフォワードになって欲しい。ヤマトでは社長も営業部長も一円も稼いでいない。フォワードであるSDがお客様のところから一個一個荷物を集荷する以外に収入の道はないのだ」「組織図の書き方も変えた。…宅急便ではサッカーチームのメンバー表のように、一番上にフォワードであるセールスドライバーの名前を連ねて書き、一番下にゴールキーパーのところに支店長の名前を書くように変えた。」

(出典:小倉昌男「経営学」第9章「全員経営」)


これはまさに「経営戦略」から「組織設計」を構築するだけでなく、その先に肝心な「職務設計」の思想が組み込まれており、ドライバーを単なる運転手ではなく、顧客情報を自ら把握し、集荷から顧客対応までを担い、事業の成果に直接責任を持つ存在として位置づけ直したことです。組織はここまでやって初めて実効ある活動を始めるのだということを実感させられる実例であると思います。「職務設計」とは何も形式ばった書式を言っているのではなく、末端の仕事であってもその仕事が会社の事業にどう位置づけられて、何を求められているかを明示することです。従来の大口貨物中心の事業モデルでは、大口顧客の力関係やコスト構造が、サービスのあり方や現場の仕事にも影響していたと考えられます。ヤマトの宅急便の導入は単に「宅急便」という新しいサービスを世に出したというだけでなく、従来とは全く異なる組織運営の方法を打ち出したことにあると言えます。その真骨頂はドライバーの職務の定義付けにあります。小倉氏の発言にあるような明示された役割を与えられたドライバーは仕事への向き合い方に大きな違いを生むのではないでしょうか。ヤマトの宅急便の成功を、セールスドライバーの職務設計だけで説明することはできません。しかし、宅急便という事業構想を実現するために、顧客と直接接するドライバーの役割を根本から捉え直したことは、事業戦略を現場の仕事に結びつける重要な仕組みであったと考えられます。ここに、職務設計の重要な意味があります。経営戦略を掲げるだけでは、現場の仕事は変わりません。その戦略を実現するために、誰が何を担い、どのような価値を生み出すのかを具体的な仕事として定義する必要があるのです。


そして特に重要だと考えるのは、職務の位置づけを変えるとその職務に求められる責任だけでなく、周囲の管理職の役割も変わるという点です。支店長の役割も単に指示や監督することではなく、ドライバーが成果を上げられるように支援することへと再定義されるはずです。この事例から、経営戦略を実行するための組織と職務を設計する際には、次のような一貫した考え方が必要であることが分かります。


(1)     経営戦略から現場の仕事に期待する価値を明らかにする

(2)     その価値を生み出すために、現場の役割と責任を定義する

(3)     現場の仕事が、その役割・責任を全うできるよう、管理職の役割も再定義する

(4)     それぞれの職務に必要なスキル/能力・評価・育成・処遇を考える

(5)     職務の役割と責任を踏まえ、適切な処遇のあり方を検討する


こうして職務の内容が明確になって初めて、必要な能力や評価すべき貢献、育成の方向性、処遇のあり方を具体的に検討できるのです。能力を定義してから仕事のあり方を考えるのではなく、経営上必要な仕事を定義したうえで、その仕事に必要な能力を明らかにする。この順序こそが重要なのです。


ヤマトの宅急便の事例は、職務設計が単なる人事管理上の手法ではなく、経営戦略を実行するための重要な仕組みであることを示唆しています。人事制度の改革は、社員を評価する方法を変えることだけでは完結しません。人材がその力を発揮し、事業の成果を生み出せる仕事と組織をつくることから始める必要があるのです。

 
 
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