top of page

「ジョブ型」論議の迷走―欠落しているのは職務設計である―

  • 執筆者の写真: 秋山 健一郎
    秋山 健一郎
  • 36false15 GMT+0000 (Coordinated Universal Time)
  • 読了時間: 4分



日経新聞36日、9日付け朝刊「経済教室」に寄稿された「ジョブ型雇用の現在地(上)、(下)」を題材として、本人事コラムに、「『ジョブ型』論議の迷走―人事専門家の議論に欠けている視点―」と題する記事を続編の「『ジョブ型』論議の迷走(続)―職務設計なき人事制度論―」と併せ2本掲載いたしました。その中で、「ジョブ型人事」あるいは「ジョブ型雇用」のあり方に関する議論に欠けている視点を提起させていただきました。すなわち、「日本における人事制度の議論には出発点としての『経営戦略とそれに基づく組織設計・職務設計』という視点が欠如している」ということです。

 

それは、筆者が35年以上人事のコンサルタントとして、日本の大手企業で人事業務に携わっている専門家と議論する過程で感じて来た率直な感想でもあります。人事を担当されている多くの方々は、それぞれの会社で将来の幹部候補生として自信に満ちた方々で、かなりの割合の人が「一目見ればどの社員が優秀か、仕事ができるかはすぐ分かる」と豪語されておられました。社員を見抜く力があると自負されているのでしょう。しかし多くの会社が採用に当たっては周到な準備を重ね選りすぐった社員を採用しているにもかかわらず、結果として「優秀でない」あるいは「仕事ができない」社員が相当数出てくるのかという疑問には答えてくれませんでした。

 

「社員が優秀」であるとか「仕事ができる」とかという判定の基準が何であるかという議論は人事の世界では大きなテーマであり続けています。どこの会社でも社員の評価に関しては常に問題が発生しています。誰もが納得する正解がある訳ではない世界とも言えます。しかし、求められている仕事(ジョブあるいは職務)が重要な基準であることは、はっきりしています。求められている仕事が不明確なまま、あるいは仕事を離れたところでの社員の評価は不可能と言えます。

 

多くの日本企業では能力評価に関してはきめ細やかな基準作りが揃っており、それを基に評価を行うことが推奨されています。しかし多くの場合この基準が仕事から離れたところにある傾向があり、結果として上司の恣意的な判断が行われているという批判が多いのが事実です。

 

これに代わる代替案として登場したのがコンピテンシー(Competency)という考え方です。これはハーバード大学のマクレランド博士が提唱して、ライル・M・スペンサー、シグネ・M・スペンサー両氏が実践の場で築き上げた「Competency Dictionary」があり一世を風靡しました。私は個人的にライル・M・スペンサー氏とあるプロジェクトで一緒に仕事をしたことがありますが、今でも思い出すのが、「仕事を離れたところで能力を測ることはできない」という彼の言葉でした。コンピテンシーを作る上でのカギは「仕事の定義」にあるということでした。考えれば当たり前なことで、優秀と判定して採用した社員の能力が突然低くなるということはあり得ないことです。しかし誰しも与えられた仕事に十分に応えられない時もあります。しかしそれはその仕事に対してのPerformanceが良くなかったということで、能力が無いという判定とは異なるということです。その仕事を通じて出せなかった結果をどう改善するかというのが、Performance Managementの真髄だということも説明していました。

 

話が逸れてしまいましたが、能力は求められる仕事を基準として伸ばしていくものであり、その出発点は仕事の定義にあるということです。そしてその仕事を定義づけることが「職務設計」なのです。従って人事に携わる人がまず考えなければいけないのが「職務設計」です。出発点としての職務設計が無くては、人事制度としての評価制度とか給与制度とかは設計できません。日本の企業は戦後の高度経済成長期に日本的な経営といわれるものが、あまりにもうまく機能したために、人事制度の本質的なところが忘れ去られてしまったようです。既に「失われた30年」と言われる時期がさらに伸びようとしている時に、相変わらず昔ながらの人事運営を踏襲しているのが実状です。多くの人事担当者が職務設計とは何かを知らずに、人事業務を継続していることが一番の基本的な問題であると思います。

 

日本の人事の議論が制度論にとどまるのではなく、本来の出発点である「職務設計」に立ち返ることを期待したいと考えています。こうした問題意識を踏まえ、「職務設計とは何か」を改めて基礎から整理するセミナーを企画しています。詳細は改めてご案内いたします。

 

 
 
bottom of page