HOME > 人事コラム > ホットな話題コーナー

ホットな話題コーナー

 

「働き方改革:日立製作所HRテックは働き方改革を促進するか?」

2017年11月13日

株式会社 みのり経営研究所
 代表取締役 秋山 健一郎

 

9月22日付の日経新聞に「日立、人事コンサル参入-AIで適性判断採用助言」という記事が出ていた。「電機大手が人事関連事業に参入するのは珍しい。…こうしたITを組み合わせれば、働き方改革の提案などで既存のサービスと差別化できると判断した。」との内容であった。


日立製作所の経営に関しては大変興味を持っていた。2009年7800億円という膨大な赤字で経営危機に瀕したときに、69歳という年齢で社長という役割を引き受けられ、見事V字回復を成し遂げた立役者である川村氏を尊敬しているからだ。同氏とは仕事の関係で何回かお会いしお話しさせて頂いた。「野武士集団」と言われた日立にこの人ありと言われた方で、まさに野武士そのもの。余計なことは言わないが、経営の在り方への信念を感じさせられた。『ザ・ラストマン』という本も書かれ、日経新聞の「私の履歴書」にも登場されているので、ご存知の方が多いと思われる。

 

直接お話をさせて頂き、今でも印象に残っているのは、「社長機関説」という言葉である。氏によると、「社長になる前は、仕事とはスケジュール帳に一杯の予定をこなし、忙しくしていることだと思っていた。しかし、経営状態は赤字で危機に瀕しているのにその流れを変えることができていなかった。経営者は経営のプロであり、求められる結果が出なければ経営者とは言えない。」と。経営者の役割とは何か、とことん問い詰める厳しさを持たれた方だという印象であった。2014年には会長職を辞され、取締役も退任された。引き際も潔かった。

 

そのような日立が人事コンサル参入、働き方改革で差別化されたサービス提供を始めると聞き、心ときめいた。しかしながらその中身を読んでみて、残念ながら失望を禁じえなかった。「社員に関する適性試験や面談などの結果を数値化、AIで分析し、責任感が強い、大局観を持つ、勝負志向といった特性ごとに社員を分類する」という。しかしそのような特性は厳密に定義されているのであろうか?またどのようなメカニズムで社員をそのような特性に分類できるのだろうか?まず素朴な疑問が湧いてくる。さらに「社内にどういうタイプの人材がいるか分布がわかるようになる。安定重視の社員が多い企業には、勝負志向が強い人材の採用を増やすように勧めて採用計画を立ててもらう」とある。

従来から採用の時にどのような人材が必要か慎重に検討したうえで採用していたのではないだろうか?AIを使おうが直感であろうが、言葉としては同じような適性を採用基準のひとつとしていたと思う。しかし入社後そう思っていた社員が変わってしまったというのが実情ではないだろうか?問題はなぜ変わったのかにある。「適性」などというものは本来そのようなもので、環境・経験に応じ変化するものである。組織にとって大事なのは、組織として求める結果を出してくれているかどうかである。「黒い猫でも白い猫でもネズミを捕る猫が良い猫である」。

 

「適性による分類」という言葉を聞くと、日本に従来からあった職能資格制度に代表される「能力主義」が思い出される。「適性」という言葉は使っているが、社員の個人的な属性により分類するという発想であり、今の「多様性活用」の対極にある考え方である。日本の組織が変われない本質的な問題と言える。働き方が変わらないのも同じ理由からである。そこでは社員を分類し、ある型に押し込み、多様な人間の在り方を否定している。人間は一人ひとり違い、違うからこそ組織発展の原動力たり得る。組織にとってはその社員がどのようなタイプかではなく、求められる結果が出せたか出せないかが重要である。そこでのカギはどのような結果を求めているかの基準が明確化されているかどうかだ。川村氏の社長機関説はまさにこのことを表現していると思う。単に社長という役割だけでなく、あらゆるレベルにおいて求められる役割を組織として定義できるかどうか。この定義には「特性」の定義とは異なり、曖昧さはない。一つ一つの役割に対して具体的に何を求めるか、組織としての方針・戦略に基づき、定義し明示するのが経営者の責任である。

 

社員の「特性」で組織の人事を行おうとするのは、今の働き方をそのまま残すことにつながる。特性と称する分類に従って人を都合よく特定の部門に押し込むことが許されるような仕組みを志向していると言える。これは今必要とされる働き方改革とは全く別物である。どんな特性を持った人間でも求められる結果を出せば良く、それがその時にあった結果の出し方であり、結果の出せる特性と言える。その逆ではない。生きた経済・市場の中での結果の出し方は多様である。たまたま結果を出せた社員も未来永劫結果が出せるとは限らない。選手交代もありうる。そのような仕組みこそ、様々な特性を生かす組織であり、本来求められるべきであろう。誰かが特性を判断し分類するような仕組みは、特定の分類に仕分けしてもらうための行動をとることを奨励することにつながる。判断する人間にとっては、願ったりのことかも知れないが、組織にとって良いとは言えず、ましてや働き方改革などできるわけがない。川村氏の指摘は、「役割とは何か」という基本的な問いかけを、あらゆるレベルで問い続ける厳しさが求められているということではないだろうか。

 

人事コラム一覧へ

 

 

みのりQ&A

人事用語集

みのり風土調査